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年金受給額

 日本では「老後に2千万円不足」という報告書が出て話題になった。スウェーデンではよく似た報告書がないか調べてみたが同様の統計はなかった。一般的に有子家庭、子供のいる単身世帯などの区別はあるが、高齢者世帯という定義は使われていない。
 スウェーデンの年金統計などは個人ベースであり、日本のように夫婦/世帯ベースではない。下記の統計において、公的年金(allmän pension)、協約年金(Tjänstepension)および私的年金(privat pension)に分けられ、額は中央値である。

スクリーンショット


 65歳以上の男性の高齢者は年間16万9千クローナ、女性は12万7千クローナの公的年金を得ている。そして9割近くの人は労使契約による協約年金を得ている。その額は男性8万クローナ、女性4万1千クロである。また私的な年金保険などを掛ける人も多く、その額は男性4万6千クローナ、女性3万5千クロである。これは年金総額のおよそ20%に相当する。
 年金制度は典型的な男女平等問題でもあり、女性の協約年金額は男性のおよそ半分である。また何らかの理由によって所得年金が少額である場合は、所得年金額に応じて保障年金(garantipension)が税金から支払われる。男性の場合、保障年金を受けているのは12%であるが、女性の場合49%になる。これは育児のため働いていなかったあるいは主婦であったがために、所得年金が低いことによる。保障年金を含む公的年金額を見ると、女性の公的年金額は男性の75%になる。
 スウェーデンでは保障年金および高齢者住宅手当によって、「妥当な生活水準」が保障されている(なお法律では「最低水準」という言葉は使われていない)。
スウェーデンの年金制度についてはこのページを参照。

保険か税か

 日本では税よりも社会保険が適当であると、多くの関係者は言う。なぜなのか、増税は政治的議論が起こるが、社会保険料はほとんど議論なしに増やせるからである。事実、そのように動いてきた。たとえば1965年GDP比の国民負担率は17.6%で、社会保険料は3.8ポイントである。そして2016年には国民負担率30.6%、社会保険料12.4%に増加している。1965年に国民負担率における社会保険料率がおよそ22%であったものが、2016年にはおよそ40%まで増えている。問題は増えたことではなく、ほとんどその議論が行われずに増えているからである。厚生労働省を含む政府関係者が保険制度を好むのは、「隠れ増税」ができるからではなかろうか。

日本の税金と社会保険料割合の変化(GDP比)

図3

OECD各国の税金と社会保険料の割合(GDP比、2016年)

図4


 OECD各国の負担を見てみると、社会保険制度を通じての負担は各国によって大きく異なることである。その中でも一番右端に位置するフランスは税負担はそこそこであるが、社会保険負担は一番大きい(16.7, 28.8)。日本の社会保険負担は平均よりも高いが、税負担はほぼ最低である(12.4, 18.2)。スウェーデンの社会保険負担はほぼ平均に近いが、税負担は大きい国の一つである(10.0, 34.1)。なお社会保険負担がほぼゼロの国が3つある。オーストラリア、ニュージランド、デンマークで、北欧諸国でもデンマークが大きく異なっていることは日本ではあまり知られていない。
2019年5月31日再編集追加

現金給付と現物給付

 北欧諸国は「高福祉高負担」呼ばれることが多いが、あまりその後の議論が無いように思える。以下の表はOECD統計によるGDP比の社会支出率(公的機関のみで、いわゆる社会保障率に近い)を表している。1990年頃には、スウェーデンはGDP比でおよそ26%、日本はおよそ11%であった。しかし2015年にはそれぞれ22%、25%に変化している。日本は1990年から増加しているが、スウェーデンは90年代初頭を除き、ほとんど変化がない。

 あまり日本では報道されないのは、これらの社会支出を現金とサービスとに分けた場合の変化である。1990年に、それぞれ15%および6%であった現金の社会支出は徐々にその差が縮まり、2012年には同率(11.7%)になり、両国間の差はほとんど存在しない。なお他のところで書いたように両国の税制度などが異なり、スウェーデンでは社会保障給付にも課税されるため、課税分と二重計算されていることに注意する必要がある。
 一方、サービスで見てみると、両国間の差は1990年に5.8ポイントであったが、2015年には若干その差は3.3ポイントまで縮まり、GDP比の社会支出の差は公的機関の社会保障サービスの差だと言うことが出来る。なおこれらの数字はあくまでGDP比での社会保障率であって、所得分配に関しては一言も述べていないことに注意する必要がある。

図1


2019年5月13日追加
 OECD加盟国の社会支出率(GDP比)を現金給付と現物給付で分けた散布図を作ってみた。相対的に現物給付に力を入れるか、現金給付に力を入れるか、加盟国によって大きく異なる。相対的に現金給付は大きいが、現物給付は小さい国は散布図の右に位置するイタリアとギリシャである。反対に現物給付が大きい国は北欧諸国で、現金給付のレベルは中ぐらいである(フィンランドの現金給付率は他の北欧諸国よりも大きい)。そして社会支出率が一番大きいフランスは右上に位置し、現金給付と現物給付が両方ともそこそこ大きい。

Cash and service1

高齢者ケアの傾向

 最新の高齢者ケア統計によると、2018年10月現在ホームヘルプを受けていたのはおよそ23万6千人で、「特別な住居」に入居していたのは8万8千人である。これは65歳以上の高齢者のそれぞれ11,6%および4.3%である。
 2007年からの12年間の変化を見ると、利用者の割合は減っている。ホームヘルプの場合、2007年には12.4%の高齢者がホームヘルプを利用していたが、2018年には11.6%に減った。減少の理由について複数の理由が言われ、第1には高齢者が相対的に健康になっていること、第2に認定が厳しくなっていると言われている。

図1

「特別な住居」入居者では、2007年には民営の「特別な住居」に入居していたのは13.8%であるが、2018年には19.6%に増えた。表からも分かるように、「特別な住居」においては2011年頃まで「民営化」が進んだが、以降はおいてはほとんど変化がない。一方、ホームヘルプに関しては2013年まで民営化が進み、以降ほとんど変化がない(反対に若干減少している)。
 民営化に関しては市による違いが大きい(なおこの場合の民営化とは特別な住居では委託、ホームヘルプでは許可による自由参入を指す。またこれらの業務が「民営化」されても、認定は市によって行われる)。たとえばストックホルム県だけでもホームヘルプの民営化がゼロである市もあれば、ホームヘルプのすべてを民営化した市もある。同様にして特別な住居の運営をすべて民間委託している市もある。

図2

高齢者のための新しい住居形態

 1992年のエーデル改革により、以前のナーシングホーム、グループホーム、老人ホーム、サービスハウスは「特別な住居」として市の責務にまとめられ、施設は住居化された。エーデル改革以前は入居者のケアの必要性に応じていくつかの施設を移ることが前提とされたが、この改革によりただ単に住居としての水準が上がっただけでなく、入居者は死ぬまで住めるようになった。
 スウェーデンの高齢者ケア政策としてできるだけ在宅に住み続けられることを目的としているが、エーデル改革の結果「特別な住居」への入居が難しくなった。結果的には「特別な住居」は24時間ケアが必要な高齢者を対象とし、24時間ケアは必要ではないが一般住居に住み続けるには不安であるという高齢者に適した住居の問題が提起されるようになった。

 スウェーデン政府はこの問題のための審議会を設置、関係団体の意見も聞いて、新しい住居形態を提案した。すでに社会サービス法には「特別な住居」という概念が存在し、「特別な住居」とは別に「認定に基づく安心住居」と名付けられた住居の設置を提案した。「特別な住居」との違いはいくつかある。
 第1に、「特別な住居」の対象は24時間ケアが必要な高齢者と考えられているが(このため職員は24時間勤務)、「認定に基づく安心住居」の対象は24時間ケアは必要ではないが、一般住居で一人で住むには不安であるという高齢者である。
 第2に、「特別な住居」は市に設置の義務があるが、「認定に基づく安心住居」は市の任意である。
 第3に、一人で住むことに不安を覚える高齢者の状況は地域や個人によって異なるので、国としては詳細な規定は設けない(機能的には食事を一緒に取るようである)。一般の集合住宅内に設けることも可能だし、特別な住居の一角に設けることも可能で、これは各市の判断にまかされる(ほぼすべての市は住宅公社を持っていて、「特別な住居」や集合住宅を計画、運営している。このため、「認定に基づく安心住居」の計画および建設、運営は難しくないと思われる)。
 第4に、この問題は以前にも議論され、認定を必要としない一般住居の制度内にて建設すると決定された。しかし入居列に並んでいなければならないとか、マンションとして購入資金が必要であるとかの問題点が指摘された。このため今回の案はこれらの問題点を解決する意味もある。

 第5に、「特別な住居」と同じく「認定に基づく安心住居」も民間で運営することが出来るが、他の「特別な住居」と同じく市と医療福祉監査庁の許可が必要であり、また医療福祉監査庁の監査の対象となる。なお「特別な住居」と同じく、入居者は市によって決定される。この法律改正はすでに今年の4月から施行された。
2019年4月30日追加編集

日本から帰国

日本から帰国しました。日本でお会いした方々、どうもありがとうございました。
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Taro

Author:Taro
OKUMURA CONSULTING社代表
Sweden

スウェーデンの社会政策などを日本に紹介する仕事をしています。
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