カルテ

 スウェーデンでは電子カルテが普及しているが、その方法は県によって異なる。クラウド方式にしている県もあれば、病院ごとに行っている場合もある。また法律によって治療のための各職種の連携が重要視されている。そして本人に異論がない限り、医師は他の医師が書いたカルテにアクセスできる。

 患者中心の医療という観点から、カルテの公表も強化されている。少なくとも成人の場合は、本人の申請に基づいて原則カルテは本人に公開しなければならない。その例外は公開が本人の医療的ケアに関して問題を起こすと判断された場合である。
 カルテが非公開になった場合、医療機関が公的な場合には高等行政裁判所に公開を求めて行政裁判に訴える。もし医療機関が民間の場合、医療機関の代表(主治医?)は非公開にした理由をつけて医療福祉監査庁に報告する。監査庁ではこの判断が適当かどうかの判断を下す。なお民間医療機関が業務を終えた場合には、この機関が保有するカルテは県に移される。

強制入院および強制保護

ニュージーランド人男性の死亡が各マスメディアで話題になっているようです。スウェーデンの状況を少し調べてみました。
1.すべての医療および福祉は自由意志に基づくこと。
2.医療および福祉分野で措置入院あるいは措置保護が必用な場合は、特別法の適用を受ける。
3.精神医療では、司法精神法(LRV)および措置入院法(LPT=lagen om psykiatrisk tvångsvård)があり、どちらかの法律の適用を受ける。措置を決定するのは前者では主に裁判所、後者は精神科の担当医である。
4.これらの法律によらない強制入院は違法である。
5.措置入院はLPT法以外に社会庁令(SOSFS2008:18)によって規定され、社会庁からは法運用のためのハンドブックが発行されている。
6. 措置入院は医療機関への訪問から24時間以内に診断の決定がされなければならない。4日より古い診断による措置入院は認められない。
7.自傷あるいは他人を傷つける緊急の危険性がある場合は、拘束することが出来る。拘束中、職員が常にそばにいなければならない。拘束は患者に対する罰であってはならない。職員不足は拘束を行う理由にはならない。
8.明らかに4時間以上の拘束が必用な場合は、その決定を行う医師自身が診断しなければならない。そしてこの決定は理由とともに医療福祉監査庁に報告しなければならない。短い時間拘束を外しても、4時間の制限は有効である(遅くとも4時間以内に拘束の必要性を再度判断しなければならない)。拘束は72時間ごとに必要性のチェックを行い、毎回医療福祉監査庁に報告される。
9.これらの決定、継続的な実施状況はカルテに記入されなければならない。
10. チーフドクターの責任において、ケア計画を作成しなければならない。

マリア法

 福祉分野のサラ法と同じく、医療においても報告システムが存在する。医療事故あるいは手順違反などを医療福祉監査庁へ報告する規則が、いわゆるマリア法である。
 1936年8月、ストックホルムにあるマリア病院で麻酔剤と消毒剤を取り違え、4名の患者が死亡した。この結果、医療事故などを監督官庁に報告する制度が1937年から出来た。一般的にはマリア法(Lex Maria)と呼ばれているが、独立した法律ではなく関係法の一部をなしてきた。現在、患者安全法に報告の義務が明記されている。

「医療において、患者が重大な事故か病気に遭うか、そのような危険を負ったならば、ケアの供給者はこれを医療福祉監査庁に報告しなければならない。------」

 さらに職員の報告の義務が定められている。
「医療職員に属するものは、医療を受けた際に患者が重大な事故か病気に遭うか、そのような危険を負ったならば、ケアの供給者に報告しなければならない」

 この法律の運用ガイドラインとして、「マリア法による報告義務に関するガイドライン(SOSFS 2005:28)」が社会庁より施行されている。マリア法の目的は、客観的な調査を行って同じような事故がふたたび起こらないようにその経験を普及させることと、患者および家族になぜ、そのような事故が起こったかを知らしめることである。対象はあくまでも避けることが出来た重大な事故か重大な病気である。ガイドラインにおいては、社会庁への報告の義務がある例が挙げられている。患者にとって重大な影響を及ぼした転倒事故、処方の間違い、処方量の間違い、医療事故、間違った医療情報、不適当な医療指示、医療機器の間違った使用、保全、感染、組織内あるいは組織間の協力における手順違反などで、2006年からはさらに退院から4週間以内の自殺も報告に含まれるようになった。

医療福祉監査庁

 2013年に医療および福祉関係の監査機関が統合され、医療福祉監査庁(IVO)が設立された。今まで福祉関係の監査は政府機関である県行政庁が行い、医療の監査は社会庁が行っていた。しかし90年代から監査は別の組織にするべきだという意見が大きくなり、また監査組織が二つに分かれているのは非効率だと批判された。この結果、この二つの監査組織を別組織として統合することに合意が得られ関係法案が国会で議決された。
 医療福祉監査庁の業務は医療および福祉分野における業務監査、職員監査、分析、許可業務および不服の取り扱いであり、これらの分野におけるデータベースの管理も行っている。
 医療福祉監査庁は6箇所に地方事務所が多かれ、ストックホルムに本部が設けられている。職員数はおよそ630名、平均年齢50歳、職種的には監査官、調査官、法律家などである。なおこれらの職員は主に社会庁などから移ったので、公務員の総数が増えたわけではない。
 その地域における案件は原則地方事務所が取り扱うが、地方事務所ごとの案件が少ない分野あるいは全国的な観点から取り扱った方が良いと思われる場合は本部が取り扱っている。

訪問看護

日本でも在宅看護あるいは包括ケアが話題になっているが、スウェーデンと日本の状況は異なる。スウェーデンでは在宅看護(在宅介護ではない)は医療に属し、県が行い、在宅介護は市が行っていた。このため医療と介護の連携が問題となっていた。1992年にエーデル改革が行われ、まず医療に属していたナーシングホームなどが市に移された。在宅看護に関しては市と県の合意にまかされることとなり、2014年にはストックホルム県を除くすべての県で在宅看護が市に移された(すでにエーデル改革によって1992年からおよそ半分の市では訪問看護は市に移っていた)。なおこの場合の在宅看護とは一般住居における訪問看護と特別な住居における在宅医療が含まれる。市が行う在宅看護には医師は含まれないが、医師は嘱託医のような形で参加する。どの様な形で統合するかは、県と市が話し合って決めている。

現在、スウェーデンの訪問看護は大きく分けると2種類存在する。一つは市の訪問看護で、二番目は医療を行う県の高等訪問看護である。一般的な訪問看護を行うのは市の訪問看護師であるが、医師は含まれない。高等訪問看護は県の病院を中心として行われる。県によって若干異なるが、高等訪問看護の特徴は3つある。第1に病院の老年科あるいは腫瘍科がベースになっていて、必要に報じて病院の救急を経ないで直接入院できる。第2は病院を中心として24時間の訪問看護チームが存在し、医師も参加している。地方の状況にもよるが、病院から車でおよそ30分以内が、その対象である。最近特に地方においては、第3の訪問看護が始まっているところがある。これは訪問看護助言チームと呼ばれる活動で、特に市の看護師や在宅で訪問看護を受けている人およびその家族に対して助言を行うチームである。このグループは緩和医療の可能性を広める役割も担っている(緩和ケアの一つの役割は家族などに対するサポートである)。
スウェーデンでは病院外、たとえば老人ホームや、ナーシングホームなども住居なので在宅看護である。これらの特別な住居ではナースは常駐している。また小さな市では特別な住居の医療と一般住居での医療(ナースまで)を統合して、訪問看護として提供している(ただし市の状況によって統合の仕方は異なる)。

スウェーデンのe-health

スウェーデン政府はe-healthに力を入れているので、私が住んでいる県ではどこまで利用可能かチェックしてみた。個人番号と暗証番号でアクセスすると、以下の画面が出てきた。


スクリーンショット 2016-05-27


まず登録している地区診療所が出ていて、オンラインで診察の予約、変更が出来る。さらに処方箋、失禁用おむつなどの延長などもできる。またカルテの取り寄せも出来、誰がカルテを読んだかの確認が出来る。
個人番号を使って処方箋データベースおよび医薬品データベースににリンクしていて、処方の確認、最近購入した処方薬の確認も出来る。クラミジアテストの取り寄せも出来るようである。
以前に見たときはなかった内容なので、この数年でかなり内容が充実した。

看護師の国際移動

EUによると、種々の職業のうち一番国際移動が多いのは看護師で、次に医師、電気技師、教師が続く。
看護師に関してはルーマニアの看護師が外国で働くのが一番多く、2008年から2013年まで7120人が移住した(正確には外国の看護師免許を申請した)。次に多いのが、スウェーデン6585人でノルウェーが主な移住先である。他にはドイツ、スペイン、ポルトガルの看護師が外国で働いているようである。

スウェーデンは看護師不足を解決するため、派遣会社に頼っていたが、これが高すぎると批判があった。このため最近は上記の国々から直接看護師を雇用することが普及しはじめている。基本的な看護師資格は各自がすでに持っているので、後は半年のスウェーデン語コースに行くだけである。すでにダーラナ県、カールマル県、ウプサラ県などはこれらの看護師を雇用したそうである。

なおスウェーデンの医療は公的に行われているのが普通で、労働組合との間で労使協約が結ばれる。民間の医療機関でも同じで、外国の看護師だからと言って待遇が悪くなるわけではない。
プロフィール

Taro

Author:Taro
OKUMURA CONSULTING社代表
Sweden

スウェーデンの社会政策などを日本に紹介する仕事をしています。
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