生活保護行政の質

スウェーデンでは市の業務比較が盛んで、これによって質の向上をめざしている。その比較分野の一つは生活保護行政である。各市の以下の分野が調査されて比較される。

1.生活保護部が市の児童ケア部、成人ケア部、労働市場部と協力しているか。
2.職業安定所、社会保険庁、プライマリケア、精神科外来、徴収庁と協力しているか。
3.児童の観点から判断されているか。
4.ソーシャルワーカーの資格、2年以上の経験の割合
5.研修のシステム化、職員研修計画、個人ごとの研修計画が作成されているか。
6.職員サポートが十分であるか
7.生活保護必要性判断の標準化が行われているか。
8.個人の結果フォロー、業務評価、ITシステム評価があるか。
9.受給者調査
10.3ヶ月以内の行動計画作成、行動計画の受給者承認、行動計画を3ヶ月以内のフォローアップが行われているか。
11.認定のための待機期間は何日か
12. 青少年のための就労支援対策、その他の成人のための就労支援対策、家計サポートがあるか
13.児童虐待、親族内での暴力、有子家庭の立ち退き対策、個人情報保護があるか
14. 不服申請の取り扱い
15. 法的データベース、新しい法規解釈の情報、法解釈に対する能力は十分か
16. 不服申請のよる変更
17. 市のホームページにおいて生活保護情報(不服申請、意見、書面での判断、世帯概念について、生計援助以外の生活保護額、職業安定所、社会保険庁および年金庁へのリンク)が十分かどうか。

そしてこれらの調査結果と共に、社会庁の生活保護データベース、統計庁の全住民データベース、教育データベース、収入データベース、就労データベースの分析結果が公表されている。

数々の数字が上げられているが、たとえば行政裁判所に不服申請がなされて、申請者が勝った裁判は不服申請件数のうちおよそ9%である。つまり91%は市の判断が正しいと判断されたことになる。

市あるいは区ごとに、指標の数字あるいはイエス/ノーによって分類される。

スクリーンショット 2013-12-12

同じく市あるいは区ごとに、長期受給者、有子家庭の割合、費用などの背景数字も使われる。最初の行は全国平均である。

スクリーンショット 2013-12-121

生活保護の申請

日本では生活保護申請の厳格化が話題になっているようである。スウェーデンではどうか調べてみた。
まず、社会サービス法において申請は必ず書面にて行われなければならないとは書かれていない。口頭での申請も可能である。しかし福祉事務所は申請内容のチェックを行う必要がある。このために最初の会合で提出する書類リストおよび申請書が前もって送られる。そして申請書にサインすることによって、申請者は申請内容に間違いはないこと、福祉事務所が他の公的機関から必要な情報を得ることを認める。
もし申請者が必要な情報/書類を提供しないあるいは他の行政機関とコンタクトすることを拒否するならば、福祉事務所は生活保護の申請を却下すべきであると、社会庁のガイドラインは述べている。

なお社会サービス法の適用はあくまで市が判断して行うもので、法律および社会庁の政令は守らなければならないが、市の判断責任から逃れられるものではない。社会庁の生活保護ガイドラインもそのような観点から書かれている。

青少年の暴動

スウェーデンにおける暴動が日本でも話題になっているが、マスコミに書かれているほど単純な話ではない。今日、朝日新聞にストックホルム発のロイター電の記事が載っていた。以前の記事に比べて相対的に正確であるが、異論がある部分も存在する。
まず今回の騒動の原因は複雑であり、聞く人によって意見は異なる。左翼系の団体は社会問題と警察の対応を批判するが、特に警察の対応に問題があったかどうかまだ不明である(問題点は、投石される中での排除行為という状況で、必要以上の手荒い対応をしたかどうかである)。刃物を持った男性が警官に手向かい、射殺されたことが原因であるという意見もあるが、これに関しては調査委員会が設置されている。

一般的な背景要因と特殊要因を区別することが必要である。
騒動の直接的な原因でないにしても、背景要因は青少年層の社会に対する不満であると思う。特に騒動が起こった地区は失業率も高い(青少年失業率についてはここを参照)。特にこの地区でおいては学校にも行かず働いてもいない青少年が多い。一般的に義務教育しか出ていないあるいは高校中退の青少年は職を得ることが難しい。もちろん差別もあるかも知れないが、これがいちばん大きな問題かどうか。
新聞記事には、すでに逮捕された青少年の背景分析が載っていた。これらの青少年は麻薬、窃盗などの犯罪歴があり、警察にはよく知られていたらしい。また家族との関係が悪く、バガボンド的な生活をしている青少年もいるらしい。また写真を見ていて気になったのは黒の衣装で黒のマスクをしている青少年の群れである。暴動の際にはよく現れるグループで、どの様なグループかは知らないが、以前ヨーテボリでのEU会議の際に暴動の中心的な役割を担ったのはこのグループである(アナーキスト/極左集団だといわれている)。今回もこれらのグループの組織的行動が市民パトロールによって報告されている(これは日本のどの新聞にも引用されていないようである)。
この事件はまだ終わってはいないが、青少年(特に貧困層)の社会に対する不満という一般的な背景の中で、一部の青少年あるいは青年グループが暴動を扇動したような気がする。警察によると、暴動に参加した青少年は地域に住んでいる青少年、犯罪を犯した不良グループ、職業活動家に分けられるようである。

なお前記の記事の中で、誤解を招くようなコメントがある。
「「反移民」を唱えるスウェーデン民主党の躍進は、同国民の意見を二極化させてきた」
スウェーデン民主党の役割は過小評価も過大評価もすべきではない。前回の選挙でこの党の得票率は5,7%であり、移民者あるいは難民に対して世論が厳しくなっているわけではない。スウェーデン民主党と他の政党との違いはこれを移民問題として捉えるか階層/格差問題として捉えるかである。
「深夜にストックホルム中心部を出発する列車は、単純労働を終えて帰宅するアラビア語やスペイン語を話す移民であふれている」
外国背景のある住民が20%いる国なので、列車で他の国の言葉を聞くのは珍しいことではないし、どの路線に乗るかによっても異なる。
「スウェーデンが2012年に受け入れた難民申請者は4万3900人。前年から50%近く増え、過去2番目に最も多い人数となった。---- 難民申請者は、短期的には社会保障制度の財政負担となる。OECDのデータによると、外国出身者の失業率が16%であるのに対し、スウェーデンで生まれた国民の失業率は6%。同国が充実した福祉制度を維持するには高水準の就業率が不可欠となる」
2011年の難民申請者数は2万3千人、2012年は4万4千人である。しかしこれらの申請者がすべて認められるわけではない。2011年に認められたのは1万2千人であり、シリア、アフガニスタン、ソマリアが多い。もちろん移民者も含めて高水準の就業率は不可欠で、この問題が統合政策の一番重要な点である。

「しかし一方で、同国は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、格差が最も急速に拡大している国でもある」
これは事実であるが、先進国の中では依然として格差が少ない国の一つである。たとえば2008年ジニ係数は0,26(OECD平均は0,31)である。なお日本は0,32(2006年頃)で、OECD平均よりも格差は大きい。

Inequality-sweden.jpg
OECD (2011), Divided We Stand: Why Inequality Keeps Risingより


可処分所得は1991年から2011年まで39%上昇しているが、年齢層によって大きな違いがある。特に20才から24才の単身者の可処分所得は1991年から微増しているだけである(単身女性の場合1%、単身男性の場合5%、子供がいない二人家族の場合10%)。言い換えるならば、国民一般の可処分所得は1999年には1991年のレベルに回復しているが、20-24才の男性は2007年、20-24才の女性は2011年に1999年のレベルまで回復した。統計庁資料より。

生活保護と就労

スウェーデンの生活保護制度は就労努力が重要視され、これを強化するために社会サービス法が変更される予定である。
1.生活保護は権利と義務を伴うものであり、ひとつの問題は就労意欲である。一時的に就労し収入があった場合、この収入全額が収入と見なされて、生活保護費はその分減額されることである。その結果、受給者の就労意欲を削ぐことになる。この問題は先進国に共通で、各国とも何らかの軽減策を設けている。スウェーデンでも今まで何回か議論があり、今回改善案が出された。試案によれば、生活保護を6ヶ月以上受けていて、就労などによる一時的収入があった場合、その収入の25%は生活保護支給額の計算に含まない(生活保護費が減額されない)。ただしこれは最高2年とする。

2.以前、生活保護世帯における子供あるいは学童のアルバイト代は生活保護費計算のための収入にカウントされていた。この結果、子供がアルバイトをするとその分生活保護費が減額された。これは就労意欲をそぐものであるということから年間およそ22000クローナまでは、収入としてカウントされないことになっていた。今回、これが44500クローナまで増額される。

これらの案は法務局へのレミスを経て国会に提出される。異論がなければ7月から施行される予定である。

生活保護における医療費

日本では生活保護における医療費の増加が話題になっている。スウェーデンではどうか調べてみた。項目ごとの統計はまだ全国で整備されていないので、ストックホルム市の統計を使用した。
ストックホルム市では2011年度の生活保護費は9億8475千万クローナで、このうち生計費が88%、その他の援助が12%である。医療費はその他に含まれ、生活保護費のおよそ3,5%を占めている。なお医療費には、初診料、医薬品代、移送サービス代、めがね代、歯科医療代などが含まれる。

スウェーデンの生活保護の誤解

スウェーデンの生活保護については、このブログでもその問題を取り上げているが、厚生労働省審議会の資料を見ていたら、スウェーデンの生活保護について誤解を与えるような表現があった。これは去年6月28日の第3回社会保障審議会生活保護基準部会において配られた資料1の「諸外国の公的扶助制度の比較」という表である。この表は日本を含む5ヶ国の簡単な比較であるので、詳細は書かれていない。このような簡単な比較表はよく引用されるが、説明が不十分なことが多いので誤解を招きやすい。

1.生活保護の対象者は16才から64歳までと書かれている。生活保護の主な対象は就労世代であるが、法律上高齢者が除外されているわけではない。生活保護を受けている高齢者は少ないが、少ないことと対象に含まれていないこととは同じではない。
生活保護受給者のうち、高齢者はおよそ3,3%である。そして高齢者の中で生計困難でない人はおよそ2割である(生活保護受給内容が生計援助ではなくその他の援助である。また受給理由が生計困難である場合、およそ半分は社会保険からの高齢者生計援助の支給を待っている人だと思われる)。

2.給付内容に関して、「医療および介護は他の制度で対応」と書かれているが、これも間違いである。これは多分、生活保護(social assistance)と生計援助(income support)の違いを理解していない表現である。生活保護は生計援助と生活のためのその他の援助(other living expenses)に分けられ、医療や介護における現金給付は後者の例である。スウェーデンでは、すべての住民がほとんど無料の医療を受けられるが、初診料および入院料は払わなければならない。生活保護受給者は生活保護でこの費用を補償される(生活保護を受けているということは外部には連絡されないので、医療費などは市が後で本人に補償することになる)。

3.資産の保有限度の項目で、「家具備品や居住用の土地・家屋などは保有可」となっているが、これも誤解を与える表現である。土地・家屋(一軒家やマンション)の財産は3-4ヶ月内に処分しなければならない(家具備品に関する記述は正しい)。

なお就労所得の一部控除に関しては来年から変更がある予定である(生活保護と就労意欲を参照)。
『スウェーデンの公的扶助』週刊社会保障2012年no.2688も参照。

2012年10月11日、一部追加、変更しました。

スウェーデンの公的扶助

週刊社会保障7月30日号に、私の記事「スウェーデンの公的扶助」掲載が決まりました。
プロフィール

Taro

Author:Taro
OKUMURA CONSULTING社代表
Sweden

スウェーデンの社会政策などを日本に紹介する仕事をしています。
詳しいプロフィール

カウンター
検索フォーム
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
最新コメント
カテゴリ
RSSリンクの表示
リンク