政府の春予算における高齢者関係予算

毎年9月に次年度の予算案が提出されるが、4月には補正予算/経済政策法案が国会に提出される。春の予算案は補正予算であると同時に、向こう3年間の経済政策法案でもある。この中で高齢者関係の予算案のみを抜き出した。なおスウェーデンでは高齢者ケアは市、高齢者医療は県が行っているので、それらの予算自体は含まれていない。下記の数字はあくまで国が関係する課税、社会保険などの変化分のみである。
これらの中で一番大きいのは課税関係で、就労者および年金者の課税率の差を無くすというのが現政権の一番大きい公約である。また政府は高齢者ケアにおける職員増加のために、市に補助を行っている。2016年の評価ではあわせて5000人職員が増加したと言われている。

スクリーンショット 2018-04


高齢者ケアの比較

先日、高齢者ケアの比較報告書が公表された。この調査は毎年行われていて、28の指標によって各市が比較されている。たとえば「特別な住居」の入居に必要な日数は平均57日である。一番短い市はわずか1日で、平均は57日である。なお3ヶ月以内に入居できなければ、医療福祉監査庁に連絡され、科料の支払いが命じられることもある(特別な理由が無い限り、社会サービス法による援助は3ヶ月以内に行わなければならない)。また病院からの退院が決まってから、実際に退院できるまでの日数は全国平均で4日である。この数字は医療と福祉の連携が上手くいっているかどうかの指標でもある。

他にも興味のある数字が載っている。
「特別な住居」への入居時における平均年齢(メジアン値)は86才である。
「特別な住居」入居者は入居前に月に平均52時間(メジアン値)のホームヘルプを利用していた。
ホームヘルプを受けている人のうち、およそ70%が同時に市の訪問看護も受けている。

高齢者ケアの最新統計

高齢者ケアの2017年統計が公表された。
これによると、2017年10月1日現在ホームヘルパーを受けていたのはおよそ22万8千人で、同様にして「特別な住居」に入居していたのは8万9千人である。

ホームヘルパーを受けていた高齢者のうち主に民間団体から受けていた人はおよそ18%であるが、2014年から若干減っている。また民営の「特別な住居」に入居している人はおよそ20.5%であるが、2013年から若干減少している。
民営化に関しては市による違いが大きい(なおこの場合の民営化とは特別な住居では委託、ホームヘルパーでは許可による自由参入を指す。またこれらの業務が「民営化」されても、認定は市によって行われる)。たとえばストックホルム県だけでもホームヘルパーの民営化がゼロである市もあれば、ホームヘルパーのすべてを民営化した市もある。同様にして特別な住居の運営をすべて民間委託している市もある。ストックホルム市ではホームヘルパーにおける民営化率は64%、「特別な住居」においては56%である(数字は人数比)。なお第2の都市であるヨーテボリではホームヘルパーにおける民営化率はゼロで、「特別な住居」は19%である。

同じ統計には特別な住居の住居水準も載っている。
これによると、まず多少室はゼロで、配偶者以外の人と同室というのもほとんどゼロに近い。
このようにほぼすべてが個室であるが、調理の可能性なし、トイレ、シャワー/浴室なしの1部屋はほぼ1%、トイレ、シャワー/浴室はあるが調理の可能性がない1部屋は18%で、主に認知症者が対象のユニットであると思われる(対象が認知症者である限り、個室に調理の可能性が無くても住居として認められる)。

注)この統計は主に運営者および特別な住居の水準に関するものであるが、ヘルプの内容、人数、月の時間数、特別な住居の入居者などに関しては6月頃に発表される。

高齢者ケアの目的

The objective for elderly policy is for elderly people to be able to lead active lives and have influence in society and their own everyday lives, for them to be able to grow old in security and retain their independence, for them to be met with respect and to have access to good health and social care.

Elderly care must meet high standards. Elderly people and their families must be able to feel confident that health and social care is of good quality and that enough staff with appropriate training and experience are available.
(社会省のホームページより)

高齢者ケアは社会サービス法の3つの分野の一つである。これらの分野はsocial careと呼ばれ、social omsorgの英訳である。特に1991年に決定されたエーデル改革以降、vård och omsorgという言葉が使われるようになった(omsorgは社会サービス法、vårdは医療法の言葉である)。英語ではCare and Servicesと呼ばれるが、上記の文章のようにhealth and social careという言葉が使われることもある。70年代後半から言葉の使い方が変遷しているので、注意が必要である。

著者の「スウェーデンの高齢者ケア戦略」(2010年)より引用。
1998年に決定された高齢者国家行動計画(Prop 1997/98:113 Nationell handlingsplan för äldrepolitiken)には、一般的社会保障の原則が述べられている。
「良い社会は連帯を基本に築かれなければならない。すべての人が同じ価値を持つという原則を出発点として、共同で責任を取ることは、社会において人々を結びつける力でもある」
● 必要性
援助は個人の財政、社会的背景、性別あるいは年齢に関わりなく、必要性に応じて配分される。ケアの供給と配分を市場に委ねることはできない。
● 民主制
選ばれた議会によって民主的に決定される。共通の利益にしたがって、ケアを民主的に発展させることは必要である。
● 連帯性
税金でもって連帯的に負担される。略

上の3つの原則を受けて、さらに高齢者ケアの目標が次のように述べられている。
− 高齢者は安心してまた自立を保ったまま老齢を迎えられるべきである。これは財政的安心感、年金の自由選択、自立した生活、住み続けられること、アクセスの改善、社会での安心感を表している。
− 高齢者は社会生活および自分の日常への積極的な参加ができるべきである。個人は、入居者、患者、ホームヘルプの利用者などとして影響力を行使できる。高齢者は市、県自治体、国会において代表がいるべきである。市や県自治体において高齢者団体が決定前のプロセスに参加できる。
− 高齢者は尊敬をもって迎えられなければならない。年齢によって差別されてはならない。個人として対応されなければならない。
− 高齢者は良質の医療ケアおよび社会サービスの利用が可能であるべきである。本人が望む限り、今まで住んでいた住宅にできるだけ長く住み続けられる可能性が与えられる。介護の必要性が大きくなった場合、特別な住居に入居できる。本人の背景や母国語に応じて、介護が与えられる。若年者と同じ条件で、医療が与えられる。個人の必要性、人間の価値、個人の希望、尊厳、自己決定は尊重されなければならない。終末期ケアの質は高くなければならない。不必要に施設間を移動させられるべきでなく、一人で亡くなることがあってはならない。

高齢者ケアにおける費用負担

高齢者・障害者ケアにおける自己負担は、社会サービス法によって各市が決定できるものとされている。この場合第1に実費を越えてはならないこと。第2にすべての利用料を支払った後、生活費が残らなければならないこと。第3に夫婦の一人が特別な住居に入居した場合、在宅に住んでいる配偶者の生活が経済的に悪化しないように市は保障しなければならない。

− 介護費用、デイケア費用、市の訪問看護費用は、1772クローナ(2016年)を越えてはならない。
− 賃貸法が適用されない住居の場合、その費用は一月当たり1846クローナを越えてはならない。
− 介護費用、デイケア費用、市の訪問看護費用、賃貸法が適用されない住居の費用を徴収するためには、最低額(minimibeloppet)が残らなければならない。単身者の最低額は5001クローナ、同居している夫婦あるいは共生の場合は一人あたり4225クローナである。これに住居費を加えた額が最低保証額(förbehållsbeloppet)になる。
− 法律による最高額、最低保証額の規定は守らなければならないが、この範囲内で市は費用計算を決定できる。たとえば2013年に行われた調査によると、在宅における介護費用を時間単位で決めていたのは市の50%になる。また時間ではなくレベルごとに費用を決めていたのは32%、レベルと収入によるのは8%である。
− 高齢者ケア全体では個人負担の割合は平均でおよそ3.8%である(ホームヘルプは5.7%、特別な住居における介護などは3%。ただし特別な住居は住居なので、この計算においては家賃は含まれていない)。

費用計算の根拠となる収入の定義は1年間の見なし収入とし、高齢者のための住宅手当も収入に含まれる。財産は費用に影響しない。夫婦の場合、両者の収入総額を2で割ったものを個人の収入と見なす。収入の定義は、原則的に年金庁の高齢者に対する住宅手当と同じ計算方法を使用する。費用決定は、行政裁判を通じて不服申請ができる。

なお「特別な住居」における食費は各市が決定し、家賃は住宅会社(普通は市の住宅会社)が決定する(なお市の住宅は貧困対策ではないので、特に家賃が安いわけではない)。

この文章は「医療福祉研究No26(2017年号)」(医療福祉問題研究会)に載せた「スウェーデンの社会保障における最低保障」という記事から引用しました。一部追加あり。

インターネットを使ったケア会議の例


病院からの退院時におけるケア介護(患者、家族、市の訪問看護ナース、市の作業療法士、病院のナース、地区診療所のナースなど)、スウェーデン語







病院からの退院

スウェーデンでも包括ケアが話題になっているが、その一つが病院からの退院である。エーデル改革は日本で話題になり、ナーシングホームなどが福祉施設/特別な住居になったことは一部では知られているが、病院からの退院時におけるプロセスについてはあまり知られていない。

− 1992年施行のエーデル改革と同時に「市の支払い責任法)が導入された。身体長期医療、身体短期医療、老年科医療では、市の福祉事務所がケア計画会議の招集を受けてから土、日曜、祝日を除いて5日後には市に支払い責任が生じる。なお精神科医療では30日後(休日および祝日を除く)から支払い責任が生じる。
− 患者の退院後に市の社会サービス、訪問看護あるいは県のプライマリケア、精神科外来などの医療が必要ならば、ケア計画を作成しなければならない。担当医はケア計画を作成するために、他の関係者にケア計画会議の招集を行う。
− ケア計画会議の招集、方法については県ごとに異なるが、ある県では、市はケア会議の招集に対して24時間以内に受領返信を行い、この時間を持ってケア計画が始まったと見なされる。最近はこの会議のためにIT技術が使用されることが多い。ケア計画には援助の内容、その責任者などが書かれ、患者が退院の際に持って帰る。
− 遅くとも予定された退院日の前日までに、担当医は退院連絡を関係機関および関係者(県のプライマリケアおよび市など)に送付する。
− 市がケア会議の招集に応じなければ、前項の条件で支払い責任が生じる。
− リハビリに関しても県と市は連携しなければならない。

− 病院からの退院の手順の例
1. 月曜日午後1時にケア計画会議の招集を連絡
2. 2週目の月曜日12時に退院連絡を行う
3. 2週目の火曜日に退院
4. もし2週目の火曜日に退院できなければ水曜日から市に支払い責任が生じる。

− 病院の担当医が退院可能と決定してから実際に退院するまでの期間は平均して4.2日である(2015年9月)。これも地域によって差がある。なお退院可能というのは治療が全く終わったということではなく、病院での治療が終わったということで、その後の治療はプライマリケアあるいは市の医療に引き継がれる。

プロフィール

Taro

Author:Taro
OKUMURA CONSULTING社代表
Sweden

スウェーデンの社会政策などを日本に紹介する仕事をしています。
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