「地域密着型」と「地域包括ケアシステム」

日本のニュースを読んでいてわからない言葉がいくつかある。そのひとつは「地域密着型」という言葉で、そもそも一般的に言う福祉が地域をベースにしている以上「地域密着型」でない高齢者ケアとは何なのかと言うことが分からない。特養などは「地域密着型」と見なされてないようであるが、その理由が全然理解できない。必要なのは地域あるいは地方自治体がシステムとして機能しているかどうかである。

同様にして「地域包括ケアシステム」もわかりにくい言葉である。地域包括ケアシステムというのは、「高齢者が重度な要介護状態になっても、住み慣れた地域で最後まで暮らせるようにすること」だと思うが、「包括」という言葉が使われているように、これは病院/開業医、施設、在宅との連携システムであるはずである。よく施設対在宅という風に議論されるが、個室化、住居化のみが議論されて介護形態の議論がほとんどない。いわゆる施設の住環境および介護環境は改善の余地はあるが、施設あるいは介護住宅は将来も必要で、病院や施設などを考慮しない地域包括ケアシステムは意味がない。
最近読んだニュースで、地域包括ケアシステムにおけるサービス付き高齢者住居の役割について、厚生労働省代表が変なことを言っていた。これはリロケーションの議論にも関連するが、介護が重度になった場合の介護形態がほとんど考慮されていないことに驚いた。そもそもサービス付き高齢者住宅はどの様な高齢者を対象にした住居なのであろうか。住居化と介護形態の議論が不十分な気がする。個人レベルの話とシステムレベルの話の区別が必要である。

インシュリン注射などができない特養

朝日新聞に特養の入所順がどの様に決まるか記事が載っていた。気になったのは、「人気があるのは、インスリン注射など医療的な行為ができ、便利な場所にある施設」という記述である。ということはインシュリン注射などができない特養があると言うことになる。そこで知りあいの医師に聞いてみた。

「基本的に医療行為は医師の指示のもとに行われなければなりません。特養は夜勤の看護師はいません。だから、昼に注射を打つことが出来ても、夜間に急変があった場合、対応できません。医師も嘱託医、協力医だけですから、夜間に連絡もつきませんし、救急車を呼ぶしか対応できません」
特養においてもここまで医療との連携が悪いとは思っていなかった。今まで何の改善もされなかったのであろうか。これも例の医師と看護師の縄張り争いであろうか。そして厚生労働省の無策。

なおスウェーデンでは、看護師までの医療行為は特別な住居の業務に含まれる。そこで問題となってくるのは特に小規模の特別な住居での夜間の看護師配置である。夜間看護師を配置できない場合は、一人の看護師が複数の特別な住居を担当するとか、夜間の訪問看護師が特別な住居も担当するとかの方法をとっている市もある。医師は嘱託医であるが、必用な場合は看護師は医師に電話連絡をして指示を仰ぐ。
スウェーデンにおいても看護師の医療行為は医師の指示に基づいて行われるが、特別な住居の看護師や訪問看護師は病院などの看護師に比べて、より強い独立性を持っている。インシュリンの注射などは前もって医師から処方が指示されている。

このように、市の特別な住居あるいは在宅ケアにおいて十分な医療との連携がなくてはならず、直接的には市の医療責任看護師がこの責任を負う。これは民間委託の場合も同様で、市との契約によって運営団体は医療との連携に責任を負う。特別な住居を計画する場合、夜間に看護師を配置するための最低の居住者数はひとつの参考要因である。

2013年7月29日追加。
インシュリンの注射について知りあいの医者に詳しく聞いた。
朝日新聞の記事にあったインシュリンの注射ができないというのは、本人が注射できない場合で、なおかつ准看あるいは看護師などがいない場合、あるいは医師とのコンタクトができないので急変に対応できない場合のようである。これによると条件自体はスウェーデンとあまり変わらない。上記に書いたように、問題は最低限准看護師が勤務しているかおよび看護師および医師などとの連携体制である。

24時間訪問介護

1年前に24時間訪問介護がスタートしたが参入が進んでないという記事があった。1年前にスタートした時は、まだ24時間訪問介護が行われていなかったことに驚いた。24時間訪問介護は前から話題になっていたはずで、今まで厚労省は何をしていたのだろうか。やはり大きな問題は、介護保険における中央集権主義であると思う。全国的な給付システムを構築しなければならず、いろいろな利害関係や財政状況もあり、これに時間がかかるのではなかろうか。以前にも触れたことであるが、介護保険導入前、地方自治ということが話題になっていた。しかしいつの間にかこの議論は新聞紙上から消えてしまった。不思議に思っていたものである。
新聞記事によると、介護保険を運営する全国1580市町村(広域連合含む)のうち、今年度の導入を計画したのは189市町村と12%だけらしい。そもそも市町村はどの様に計画しているのだろうか。
24時間訪問介護にどの様にして医療を含むかという問題は別にして、日中と夜間の介護などを同じ組織が行うためには、ある程度の利用人数が必要である。結果的には、都会のみのサービスになってしまう危険性がある。この危険性を避けるために、日中と夜間などのサービスを分け夜間の対応地域を拡大することによって、必要な利用人数の確保を図るというのも一案である(夜はナイトパトロールという形で別組織化)。
運営主体にかかわらず地域における計画ということが非常に重要な意味を持つが、「民営化」あるいは市場化によってこの計画性が不十分になった気がする。厚生労働省は「日中のケアが行き届いていれば、夜間の呼び出しは多くない。こうした実情を自治体や事業所に伝え、参入を促したい」と言っているが、利用者が多くないから(市場で解決できないから)問題なのである。介護保険導入時における「権利が増える」という宣伝文句はどこへ行ったのか。
もちろん山奥の一軒家でも24時間訪問介護が利用できるようにするには色々な問題があると思われるが、少なくとも全国の市町村で利用できるように市町村の計画権(およびサービスの供給義務)を強化するべきではなかろうか。菓子屋的(?)には、全国で飴を食べられるようにすることが重要であっても、金太郎飴である必要はない。

四人部屋論

入所待機者や低所得者に対応するため、田村厚生労働大臣は先日、衆院予算委員会で特養の個室化の方針の見直す可能性を言ったらしい。関係者の話によると、事前通告なしの質問に対してアドリブで答えたようである。ただ自民党が公約でプライバシーに配慮した4人部屋を整備すると言っているので、それに沿った答えであろうと思われるが、政治家として何のビジョンもない返事である。準個室とか呼ばれるプライバシーに配慮した4人部屋というのは、カーテンか家具で分けたにすぎないので、多床室に変わりはない。
この自民党の案がどの様な分析がされて、どのような利権が絡んでいるかは知る立場にないが、高齢者ケアの後退には違いない。高齢者施設のようなハードに関しては20-30年先のことを考えて計画する必要がある。人はすぐにも動かせるが、ハードの変更は難しい。もちろん高齢者施設を後で改築することも可能であるが、一般的には改築費は高くなり、質的にもベストではなく二次的解決になる傾向がある。
スウェーデンでも高齢者施設/住宅が不足しているが、需要を満たすために個室化を否定するような話は聞いたことはない。ましてや、大臣がそんなことを言えば即刻国民およびマスコミから批判されるのは確実で、首が飛ぶ可能性もある。
将来的には、介護施設は個室なおかつユニット型にする必要がある。最新統計によると、老人福祉施設で47%、老健で12%、療養型施設で0,5%で、道のりは遠い。

スウェーデンの高齢者施設/住居

認知症国家戦略に関する国際政策シンポジウム

認知症国家戦略に関する国際政策シンポジウムが日本で開かれ、東京都医学総合研究所のホームページに紹介されている。残念ながら、スウェーデンは招待されなかった。デンマークの方が良いと判断された基準は何なのだろうか。

朝日新聞
読売新聞

認知症介護情報ネットワーク『スウェーデンの認知症ケア

グループホーム火災

長崎県のグループホームでまた火事があった。日本のグループホームの詳細な建設条件を知らないが、いくつか不思議なことがある。
1,報道によると、グループホームは4階建てで、三階分がグループホームに使われていたとある。このようなグループホームをなぜ市が認めたのであろうか。グループホームはユニットとしての居住形態であると同時に介護形態でもある。三階に別れていれば、ユニットとして機能することが難しいだけでなく、職員の勤務(特に夜)が難しくなる。そして新聞に載っている見取り図によれば、階段で移動していたようである。階段はまさにバリアフルで、なぜユニット内に階段が認められたのか。夜は職員がひとりだと思われるので、このような構造が避難を難しくした一要因ではなかろうか。
2.スプリンクラーがない、防火扉がないことが話題になっているが、このグループホームは275平方以下なので、設置義務がなかったはずである。あくまでも「積極的に設置に努めること」という努力規定である。ただ単純に努力規定であるものを努力していないということで、法律上批判することは出来ないと思う。もしどうしても必要ならば、法律で義務化すればいいのである。スウェーデンではスプリンクラーは設置されていないが、グループホームがユニットになっているので、各居室だけではなくユニットごとにドアが設置されている。
3.これらが設置されてないことを消防署か市が何回も指摘したとあるが、単に努力義務であれば、指摘以上のことは出来まい。一方、市の判断で設置を義務化し、ある期間内に設置されなければ、使用停止に出来なかったのであろうか。
4.これらの設置費用の負担が大変だといわれているが、これは運営者の責任を減らすものではない。しかしこの負担は介護政策上ではなく、住宅政策上で扱うべきである。既存の住宅を利用するということが、必要な改築を行わない理由にはならない。
5.火災の原因はまだはっきりしていないが、なぜ居室での火災が他の部屋まで広がったのであろうか。少なくとも火災が起こった居室のドアを閉めれば、他の部屋への類焼時間を稼げると思うが。さらに、火災報知器はなかったのであろうか。
6.根本的には、グループホームが介護形態でもあることを十分理解しないまま、国土交通省、総務省、厚生労働省がバラバラに対策を作っていることにも原因があるように思える。
7.一般住居などにグループホームを設置することは可能であるが、その場合グループホームが物理的にも一つのユニットであるということを理解する必要がある。

高齢者住居私論

 先月、「サービス付き高齢者向け住宅」の登録制度が始まった。以前の高齢者専用賃貸住宅との違いは、安否確認をしたり生活相談にのるサービススタッフの常駐である。対象は要介護度が低いお年寄りであるらしい。これはよく考えなければ、中途半端な住居になる危険性がある。
 いくつかの問題点がある。第1は、介護が外付けであるにもかかわらず、住居と介護が分離していないことである。このため原則的にこの住宅の事業者(独自あるいは提携)の在宅介護しか選べない。包括的ケアという言葉が話題になっているが、医療と福祉の連携は建物ごとではなく地区レベルで考えるべきものである。第2の問題は、ここが死ぬまで住めるということを保障しているかどうかである。仮に死ぬまで住めるとしても、介護度が重度になった場合、それに適した介護形態であるかどうか。住居形態と介護形態の区別が十分されているようには思えない。
 先ず行うべきなのは、住居と介護の分離である。既存の施設も個室化だけでは不十分で、住居化しなければならない。そしてその場合、施設/住居の管理と介護の運営を分けるべきである。今まで施設の改善が十分できなかったのは、建物の所有と介護の運営が分けられていなかったからであるとおもう。制度的には、保険者としての市町村の計画義務および厚労省と地方自治体の役割分担の再考が必要である。
 この「サービス付き高齢者向け住宅」はどの様な考えから出てきたかは知らないが、30年前のスウェーデンのサービスハウスによく似ている。現在、スウェーデンのサービスハウスは中途半端な住居と思われ、減少している。
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Taro

Author:Taro
OKUMURA CONSULTING社代表
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