病床数

 各国の病床数を調べてみた。資料はOECDのHealth Statistics 2015である。

スクリーンショット

 OECD加盟国33ヶ国の中で、一番病床数が多いのは日本で、千人あたり13.32であり、OECD平均は4.77である。日本はOECD平均の2.8倍ということになる。日本に続いて多いのはドイツで、3番目からオーストリア、韓国と続く。なおスウェーデンは千人あたり2.41で、下から2番目である。
 病床は急性期医療、精神病床、他の病床、長期ケアに分けられている。医療の国際比較は難しいが、その一つは国によって長期ケアの位置づけが異なることである(特に認定などに基づく長期ケア)。このため、総病床数から長期ケア病床を差し引いて見た。長期ケア病床を差し引いた日本の総病床数は人口千人あたり10.64で、OECD平均は4.17である。日本の病床数はOECD加盟国の中で一番多く、OECD平均の2.6倍である。
 日本の急性期医療病床は7.92でOECD加盟国で一番多く、OECD平均の2.4倍になる。またOECD統計によれば、日本の長期ケア病床は千人あたり2.68で、OECD平均は0.6である。一番長期ケア病床が多いのは韓国で、千人あたり3.84である(スウェーデンは0.19)。
 
 日本はどの病床形態を取っても病床数は多いが、特に異常なのは精神病床である。日本の精神病床は人口千人あたり2.67で、OECD平均の4倍にも達する。日本に続いて精神病床数が多いのはベルギー1.74、ノルウェー1.16、チェコ0.96である(スウェーデンは0.46)。日本はOECD平均の4倍も精神病床が必要であるとは考えられないので、医療原因ではない何か構造的要因があるのであろう。なおベルギーやノルウェーの精神病床数が多いのは予想外であったが、その内容を分析する必要がある。

 どの国でも社会保障費あるいは医療費が話題になっている。もし日本の病床数をOECDの平均にすると、病床が65%減ることになり、大きな構造改革になる。しかし病床数が減れば、在宅介護を含むプライマリケア費用が増える(医療に属さない介護住宅も必要になる)ので総費用で65%減るわけではないが、分析に値する改革である。なお日本人の平均寿命は長いので、病床の大きな削減は出来ないという意見もあるが、日本とほぼ同じく平均寿命の長いスウェーデンの病床数は2.41(長期ケア病床を除く)で、人口比でほぼ日本の23%であることに注目する必要がある。

社会保障番号の漏洩と個人情報の漏洩

今年10月のマイナンバー制度の導入により、漏洩問題が再び議論されている。日本の議論は以前からフォローしているが、議論のすり替えが少なくない。アメリカや韓国での状況が良く話題になるが、漏洩のプロセスがはっきりわからないことが多かった。ASAHI パソコンに社会保障番号の漏洩問題が載っている。「いったん社会保障番号が漏れれば、個人情報が丸裸になってしまうのだ」と書くのは、三流週刊誌のような書き方である。

多くの場合、問題は番号の漏洩自体ではなく、個人情報の漏洩が問題なのである(もちろん社会保障番号あるいはマイナンバー自体が漏れないようにすることは大事である)。たとえば社会保障番号の漏洩によるクレジットカードの不正収得は、番号の漏洩が問題なのではなく、カード収得における個人認証の不十分さが問題である。つまり他人の社会保障番号で、なぜカードを作ることが出来たか、どの様にして本人確認が行われたか、肝心の確認プロセスが不明である。日本でも以前から問題になっていたが、マイナンバーを使ってどの様にして個人認証を強化するかが問題なのである。しかしトレンドマイクロ社のスペシャリストがこの程度の議論レベルとは驚いた。

スウェーデンでもカードの不正収得事件は存在する。カードは住民登録された住所に送られてくるので、不正拾得者は本人宛の郵便を見張り、盗まなければならない。偽造カードの作成もあり得るが、これは社会保障番号の漏洩ではなく、カード情報の漏洩である(特にカード番号とカードの裏に書かれたセキュリティ番号の漏洩)。スウェーデンではクレジットカードか身分証明書の偽造であることが多い。少なくとも行政機関などの個人情報あるいは医療情報の漏洩は聞いたことがない。銀行や民間保険会社の個人情報の漏洩も聞かない。

精神科病床数の変化

スウェーデンの精神科病床の統計的変化については、以前のブログに書いた。スウェーデンや日本がどの程度、他の国と異なるか、統計を調べてみた。大きく分けると、4つのグループに分けられる。
第1はアメリカで、すでに60年代から精神科病床の削減が始まっている。
第2はスウェーデンで、60年代に精神科病床数は多かったが、その後70年代から80年代の改革で精神科病床数は急減した。スウェーデンは1973年に入院から外来治療への転換を明確にし、1975年から1985年にかけて改革を行った。そしてさらに1995年にはまだ対策が十分でないとして第二の改革を行い、精神障がい者に対して住居を「与える」のは市の役割であることを明確にした。
第3のグループはドイツやフランスで、アメリカやスウェーデンほど病床数は多くはなかったが、80年代から90年代の改革で、病床数は減少している。
第4のグループは日本である。他の諸国では改革が続き、病床数の減少が続いた。しかし日本はこの20年間ほとんど変化がない。2010年現在人口千人あたり2,7と他の国に比べて3-4倍の病床数で、日本人が他の国民に比べて精神病になる危険性が3-4倍も高いとは思えないにもかかわらず、異常な数値であると言わざるを得ない。

この表からもわかるように多くの先進国においては少なくとも70-80年代から精神病床の削減が始まっている。日本の特異性は他の先進諸国で行われたような改革が、この40年間ほとんど行われていないことである。厚労省がこのような状況を知らなかったとは思えないので、これが異常であるという認識が厚生労働省になかったのであろうか。現在、精神病院の病床を居住系施設へ建て替える案が出ているが、もう小手先の変更では済まないところまで来ている。必要なのは改革であって、目先の調整ではない。厚労省はこの40年間の無策を認め、患者の立場に立った政策に転換すべきである。経営ミスの責任は病院運営者、政策ミスの責任は厚労省にあり、看板の付け替えで済ませられるような問題ではない。


人口千人あたりの精神科病床数の比較(WHO統計)

精神科病床


以前の記事に追記しました。

「地域密着型」と「地域包括ケアシステム」

日本のニュースを読んでいてわからない言葉がいくつかある。そのひとつは「地域密着型」という言葉で、そもそも一般的に言う福祉が地域をベースにしている以上「地域密着型」でない高齢者ケアとは何なのかと言うことが分からない。特養などは「地域密着型」と見なされてないようであるが、その理由が全然理解できない。必要なのは地域あるいは地方自治体がシステムとして機能しているかどうかである。

同様にして「地域包括ケアシステム」もわかりにくい言葉である。地域包括ケアシステムというのは、「高齢者が重度な要介護状態になっても、住み慣れた地域で最後まで暮らせるようにすること」だと思うが、「包括」という言葉が使われているように、これは病院/開業医、施設、在宅との連携システムであるはずである。よく施設対在宅という風に議論されるが、個室化、住居化のみが議論されて介護形態の議論がほとんどない。いわゆる施設の住環境および介護環境は改善の余地はあるが、施設あるいは介護住宅は将来も必要で、病院や施設などを考慮しない地域包括ケアシステムは意味がない。
最近読んだニュースで、地域包括ケアシステムにおけるサービス付き高齢者住居の役割について、厚生労働省代表が変なことを言っていた。これはリロケーションの議論にも関連するが、介護が重度になった場合の介護形態がほとんど考慮されていないことに驚いた。そもそもサービス付き高齢者住宅はどの様な高齢者を対象にした住居なのであろうか。住居化と介護形態の議論が不十分な気がする。個人レベルの話とシステムレベルの話の区別が必要である。

所得制限

自民党政権になってから、例えば高校無償化に関して所得制限案が浮上している。所得制限案はひとつの政策であるが、その長所も短所も考察する必要がある。問題点はいくつかあり、ひとつはこれに必要な事務費、二つ目は就労に対する影響である。行政側が世帯の収入を正確に把握していると仮定しても、この判断に費やす事務費はどれくらいになるのであろうか。
二番目は収入が制限額に近い世帯の就労状況がどの様に変化するかである。仮に世帯の収入が900万円を少し越えるぐらいと仮定すると、無償化などの対象に含まれるために、特に母親の就労時間などを減らすことが考えられる。
これからの少子化社会を考えると、できるだけ多くの人が就労できることを考慮する必要があり、就労意欲を減らすような政策は考え物である。このため、まずは高額所得者層に重点を置いた課税強化という普遍政策によって平等化を図り、これで不十分なのであれば所得制限案を導入すべきではなかろうか。
日本は先進国の中で課税制度が可処分所得の平等化に寄与する度合いがいちばん低い国であり、まずは課税制度の見直しが必要なのではなかろうか。一般的に所得の平等化を図るためには貧困層あるいは高額所得者層だけを対象にすることは不十分で、この間の中間層も対象にしなければならない。

インシュリン注射などができない特養

朝日新聞に特養の入所順がどの様に決まるか記事が載っていた。気になったのは、「人気があるのは、インスリン注射など医療的な行為ができ、便利な場所にある施設」という記述である。ということはインシュリン注射などができない特養があると言うことになる。そこで知りあいの医師に聞いてみた。

「基本的に医療行為は医師の指示のもとに行われなければなりません。特養は夜勤の看護師はいません。だから、昼に注射を打つことが出来ても、夜間に急変があった場合、対応できません。医師も嘱託医、協力医だけですから、夜間に連絡もつきませんし、救急車を呼ぶしか対応できません」
特養においてもここまで医療との連携が悪いとは思っていなかった。今まで何の改善もされなかったのであろうか。これも例の医師と看護師の縄張り争いであろうか。そして厚生労働省の無策。

なおスウェーデンでは、看護師までの医療行為は特別な住居の業務に含まれる。そこで問題となってくるのは特に小規模の特別な住居での夜間の看護師配置である。夜間看護師を配置できない場合は、一人の看護師が複数の特別な住居を担当するとか、夜間の訪問看護師が特別な住居も担当するとかの方法をとっている市もある。医師は嘱託医であるが、必用な場合は看護師は医師に電話連絡をして指示を仰ぐ。
スウェーデンにおいても看護師の医療行為は医師の指示に基づいて行われるが、特別な住居の看護師や訪問看護師は病院などの看護師に比べて、より強い独立性を持っている。インシュリンの注射などは前もって医師から処方が指示されている。

このように、市の特別な住居あるいは在宅ケアにおいて十分な医療との連携がなくてはならず、直接的には市の医療責任看護師がこの責任を負う。これは民間委託の場合も同様で、市との契約によって運営団体は医療との連携に責任を負う。特別な住居を計画する場合、夜間に看護師を配置するための最低の居住者数はひとつの参考要因である。

2013年7月29日追加。
インシュリンの注射について知りあいの医者に詳しく聞いた。
朝日新聞の記事にあったインシュリンの注射ができないというのは、本人が注射できない場合で、なおかつ准看あるいは看護師などがいない場合、あるいは医師とのコンタクトができないので急変に対応できない場合のようである。これによると条件自体はスウェーデンとあまり変わらない。上記に書いたように、問題は最低限准看護師が勤務しているかおよび看護師および医師などとの連携体制である。

個人番号となりすまし

先日、マイナンバーに関するあるホームページを読んでいた。マイナンバーに反対の理由としてなりすましが上げられている。アメリカの例は直接わからないが、なりすましはマイナンバー/個人番号とどの様な関係があるのであろうか。
スウェーデンでもなりすましは話題になっていて、2つの例が挙げられる。1つは身分証明者あるいはカードの紛失、2番目はなりすましによる身分証明書あるいはカードの取得である。ただどの場合もどこまで個人番号の問題かということである。身分証明者の紛失によるなりすましは簡単にできるものではない。身分証明者は写真を必要とし、なりすましのために使うのであれば偽造しなければならない。また他人の個人番号を使ってカードなどを不法に収得することは不可能ではないが、住民登録、身分証明者を使って認証が行われる。もちろん他人のカードの不法使用はマイナンバー/個人番号とは関係のない話である。
数年前、データ監査院の調査員にインタビューした時になりすましが話題になった。その時に話題になった件に関しては、個人番号自体が問題なのではなく個人番号を使っての認証が不十分であることだと言われたのが記憶に残っている。

このようなレポートを見つけた。
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Author:Taro
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