生活保護と浪費

生活保護や児童扶養手当の受給者がパチンコやギャンブルで浪費しているのを見つけた市民に通報を義務づける条例案を、兵庫県小野市が市議会に提案したことが話題になっている。
朝日新聞の記事によれば、「生活保護世帯の増加とともに社会問題となっている保護費の不正受給を防止するため、国に先んじた。福祉給付制度の信頼回復と受給者の自立した生活を支援することを目的とする」、「パチンコや競輪、競馬などによる浪費により「生活の維持、安定向上に支障が生じる状況を常習的に引き起こしている」と認められたり、不正受給の疑いがあったりする場合、市へ情報提供することを「市民の責務」と明記した」

まず第1に、誰が「生活の維持、安定向上に支障が生じる状況を常習的に引き起こしている」と判断するのであろうか。生活保護はただ単に保護費を支給するだけではないが、福祉事務所職員はどれだけ自立のための方法論に関する知識を持っているのであろうか。

第2に、今までの報道をみてみると不正受給の意味が拡大解釈される恐れがある。行政のチェック機能は強化する必要があるが、「不正受給の疑いがあったりする場合、市へ情報提供」というのは危ない手法である。親族の扶養概念にしろ、就労にしろ、それ自体は不正受給であることを示してはいない(私が知る限り、話題になった芸能人の場合も不正受給ではない)。

第3に、これがどれくらいの効果があるであろうか。そもそもパチンコは違法ではなく、それによって給付が増えるわけではない。問題はその行為が自立を阻害しているかどうかである。仮に、受給者が毎日職安に行って求職を行い、自立のために努力している場合、パチンコに行くこと自体は何ら問題とはならない。もちろん本人の自立を促進するべきであるが、生活保護の給付条件という形で行うべきである(たとえば家計簿の作成を求め、それにもとづいて助言するということは考えられる)。このために専従調査員を2名設ける余裕があるのであれば、自立支援のためのソーシャルワーカーを雇用すべきである。現在の制度は、働けばその収入分が保護費から減額され、就労促進の誘因が弱い。まずこれを改正する必要がある。

第4に、生活保護受給者であるかどうかを問わず、ギャンブルによる浪費が問題なのであれば、これから抜け出すための支援に力を入れるべきである。福祉事務所の支援業務および職業安定所などの他の機関との協力関係に大きな問題があるように聞いている。またこの市では、民生委員は何をしているのであろうか。もちろん生活保護受給者がギャンブル中毒によって就労を阻害しているのであれば、受給条件にギャンブル中毒を辞めるための療法などに通うことを追加することは可能である(この分、生活保護費は増加する)。

第5に、市民が報告という監視制度が問題である。市民の監視あるいは密告というのは一方的な制度になりやすく、本人の人権を侵害する行為にもなりかねない。この通報が正確で、他の隠れた意図はないということを福祉事務所は調査するのであろうか。一般論として密告制度というのは勧められたものではなく、近代の法制度にはなじまない。

新聞によると、厚生労働省保護課は「保護費のギャンブル浪費は制限されているわけではないが、当然、生活再建のためには望ましいことではない。それを具体化した条例、と受け止めている」と言っているらしいが、これには少し驚いた。法律違反でも不正受給でもないことに関して、結果的には密告を認めていることになる。
なおこのような報道で、発言者の名前が出てないのは不思議である。もちろん匿名での報道も場合によっては必要であるが、特に法解釈に関連する事項については関係者の名前を出して報道すべきである。記者の問題意識が問われる(日本は政治と行政の区別があいまいになることがたまたまある)。

生活保護受給者はおよそ4分の3減らすことが出来る。

生活保護費の削減について、厚労省は財務省と合意をしたという記事が載っていたので、世帯類型と世帯人数による内訳を調べてみた。

生活保護1
(国立社会保障・人口問題研究所の統計より作成)

2010年、136万世帯が生活保護を受給していた。このうちおよそ90%が一人か二人世帯である。最近話題になっている世帯のスケールメリットについては、その計測方法および考え方が正しいとしても、対象は限られてくる。
高齢者世帯および傷病・障がい者世帯で、3年以上生活保護を受給している割合はそれぞれ75%、60%になり、生活保護が日常の生計源の一部になっている。受給者の25%(高齢者の場合は35%)が、10年以上生活保護を受給している(受給せざるを得ない)というのは社会保障制度に構造的な原因がある。
生活保護が最後のセイフティネットであり、もし他の社会保障制度で最低生活を保障することが出来れば、単純計算で生活保護はおよそ4分の3(高齢者世帯と傷病・障がい者世帯)減らすことが出来る。
生活保護の現状でも書いているように、世帯類型別にその対策を取る必要があり、単純な生活保護費の削減論は本末転倒というか的を得ていない議論である。そもそも三人以上の世帯はおよそ10%であり、低所得世帯率(最低生活費未満の世帯/総世帯数)が大きいのは、母子世帯と高齢者の単身世帯である。生活保護費増加の最大要因は高齢者の増加および保護率の上昇である(そして高齢者の場合、長期受給の割合が大きい)。
これらの制度の構造的な原因を分析することなく、生活保護費の削減に焦点が当てられていること自体が異常である。長期的な最低保障は他の社会保障制度で行う必要があり、生活保護制度は短期的な最低保障に特化できるよう生活保護制度の位置づけを根本から考え直す必要がある。

マスコミの不正受給報道

話題になっている生活保護に関して、芸能週刊誌や一部のテレビ番組を除いて全国紙は相対的に客観的な記事を書いているように思える。しかし不正受給報道はいくつかの問題がある。まず個人の不正と制度上の問題点が十分区別されてない。第2に、疑惑が十分調査されてないことである。

例えばある新聞に、形式的に離婚して生活保護を得ている家族の例が出ていた。仮にこの例が本当だとしても、生活保護を受けている背景要因がひとつも説明されていないので不正受給とは言えない。この場合の問題点は、福祉事務所が家計を共有する世帯と認定したかどうかであり、誰が形式的な離婚であると認めたのであろうか。
車の所有を申告せずに生活保護を受けていた、あるいは就労所得があるのに申告せずに生活保護を受けていたという記事もある。受給者が無申告なのは、もちろんごまかしであり問題である。しかし福祉事務所のチェックが十分行われたかどうかという問題か、制度上車の所有あるいは所得が十分チェックできないという制度上の問題かがはっきりしない。福祉事務所の怠慢なのか、制度上あるいは法律上の問題なのか、これを指摘すべきである。
埼玉県草加市の女性が少なくとも計10市区で計約1000万円の生活保護費を不正受給していたという記事が載っていた。新聞記事だけでは不明なこともあるが、申請の際に個人の確認は行われなかったのであろうか(何のための住基ネットか)。さらにDVの調査のためにもとの居住市とコンタクトが取られたのであろうか。どの様な自立援助が行われたのか。不正受給ということのみが注目されて、市のチェック、運用は十分調査されてないような気がする。

県から申請権の侵害だと指摘された市の法解釈も問題である。ある市が生活保護の申請を認めず、県から申請権の侵害であると指摘された。この結果、申請を認めたが、(申請を認めなかった)市の判断は正しいと主張している例が新聞に載っていた。市が自分たちの主張が正しいというのであれば、県の指導を受け入れなければいいのである。あるいは最終的に裁判所の判断を仰げばいい。多分、これは市の面子の問題であると思うが、マスコミは市の説明を調査するべきである。
給与よりも生活保護費の方が多いという記事も多い。この場合も、生活保護の条件が十分説明されていない。最低賃金と生活保護レベルの問題は別として、所得があれば生活保護が受けられないというのではない。所得があっても、必要な生計費が所得を下回れば生活保護を受ける権利はある。より重要なのは、資産の処理、就労/求職義務などの生活保護を受けられる条件である。
一部の市では親族が生活保護を受けている公務員の数字を公表している。民法の扶養義務の問題は別にして、公務員だけの数字を公表、調査している意味が全く理解できない。仮に扶養義務があるとしても公務員も非公務員もその対応に区別があってはならない。扶養義務の適用に問題があるならば、非公務員の場合はどうなのかも調査すべきである。

記事執筆に当たって、文字数が限られているのは十分理解できるが、個人レベルか制度上の問題かなどの不正受給の中身が十分分析されてないことが多い。生活保護は偏見を生みやすい分野なので、マスコミは十分調査してから書くべきである。もちろん個人情報には制限があるが、少なくとも指針、ガイドライン、運用は分析できるはずである。

銀行の個人情報

この春先に、生活保護申請者の預金情報について記事が載っていた。今までは申請者の預金情報は居住地にある銀行に限っていた。これを全国に広げるというものである。新聞記事が正しいとするならば、これもいくつかの問題が存在する。

1.合法性
記事によれば、厚生労働省は銀行協会と合意したということであるが、これはどこまで合法的なのであろうか。生活保護法によれば、預金情報の提供を行政は銀行に依頼することができる。一方、銀行には個人情報保護の義務があるので、もし情報提供が必要なのであれば、法的根拠を伴わない合意ではなく、個人情報の保護を考慮した情報提供義務という形で法律化するべきである。住基ネットの議論においてもあれだけの反対意見があったのに、このように十分法律に基づかない情報提供は大きな問題であると言わざるを得ない。なぜ銀行協会およびマスコミはこれを問題視しないのであろうか。合法性だけでなく、銀行はどの様な情報を提供したかを預金者に報告すべきである。ただ単に依頼があったからというのでは、無責任である。
なおスウェーデンでは生活保護受給者であっても預金情報は個人情報として特例を除き外部には提供されない。これは他の方法によって調査される。

2.情報提供の範囲
情報提供を依頼するのは申請者あるいは受給者(生活保護受給は原則世帯なので、世帯員全員?)だと思うが、新聞には親族も含まれると書かれていた。ひとつの世帯の生活保護申請に対して、親族全員の預金情報が提供されるのであろうか。あまりにもアンバランスである。法律において情報提供の範囲を定めないと、なし崩し的に運用される危険性が高い。

最近の新聞にはこの問題に関しての記事はもう載っていないので、厚生労働省のホームページを探してみたが、ここでも不明であった。いつも思うことであるが、どうも日本の行政は決定過程が不明なことが多い。
情報提供を本店経由で行うことに合意という新聞記事は見たことがあるが、個人情報提供の問題点についての記事はなかったようである。マスコミは何の問題もないと思っているのであろうか。

日本の貧困

OECDの調査によると、日本の貧困度(可処分所得の中央値の50%以下)は加盟国35ヶ国の中で、下から6番目である。また80年代から2000年代にかけて貧困度の悪化も、OECD平均よりも高い。

あとひとつ指摘しておかなければならないのは、貧困問題の研究体制が不十分であることである。EUなどでは、所得分配調査は毎年行われている国が多い。しかし日本は3年おきのようだ。また所得情報も登録情報ではなく、インタビューではなかったかと思う。
マイナンバーの導入と同時に、所得分配の研究体制も改善するべきである。各個人の正確な所得情報を抽出データベースで使うことによって、正確な所得分配調査が行え、政策効果の予測も行える(例えば、定額の児童手当あるいは所得に応じた児童手当制度導入による所得分配調査)。

スウェーデンの貧困

生活保護の現状

話題になっている日本の生活保護について、保護世帯統計を調べてみた。
2009年現在、被保護世帯数は127万世帯で、1965年に比べておよそ2倍である。特徴的なのは、この10年間増加していることである。特に高齢者世帯は1965年に比べて4倍になっている。高齢者が増加しているので、他の条件が変わらなければ生活保護を受給している高齢者も増えることは予測されることである。
全世帯数に対して生活保護を受給している割合である世帯保護率で見ると、これも大きな特徴がある(保護率の増加は貧困化が進んだと理解しても良いと思う)。全世帯での保護率は1996年頃まで減少したが、以降急増し、2009年現在2,65%である。保護率は世帯によって異なり、母子世帯は13,2%、高齢者世帯は5,9%、その他の世帯は1,6%であるが、どのグループの保護率もこの10年間で増加している。

1.保護世帯は各グループごとにその変化、理由も異なるため、全体の保護世帯数の変化だけではなく、グループごとに見る必要がある。全体の保護世帯数だけを見ていれば、変化の要因を誤解する恐れがある。
2.高齢者が保護世帯に占める割合はほぼ44%で、高齢者世帯数が増加していることと保護率の増加が被保護世帯数増加の最大の要因である。高齢者の増加以上に保護率が減少しない限り、生活保護を受給する高齢者の増加は予測されることであり、今さら驚くことではない。
3.保護世帯に占める障害者および傷病者の割合はほぼ34%で、その割合は若干減少している。保護率は不明。
4.全被保護世帯の14%を占めるその他の世帯は、就労可能な世帯と思われる。このグループの割合は1997年から急増し、保護率も増加している。
5.母子世帯も1996年から増えているものの、被保護世帯に占める割合としてはわずか8%である。なお母子世帯の保護率は一番高くて、13%が生活保護を受けている。
6.保護費総額から見てみると、生活扶助はおよそ33%で、一番大きいのは医療扶助の50%、三番目は住宅扶助の14%である。保護費総額は1965年に比べて名目でおよそ20倍になっているが、住宅扶助が68倍、生活扶助及び医療扶助がおよそ18倍になっている(時系的には名目費用よりも物価変化を考量した実質費用の変化が重要であるが、実質費用が公表されていないのは不思議である)。

生活保護費の10%削減とかの話が出ているが、単純な削減は無意味である。少なくともそれぞれのグループごとにその変化、生活保護を申請しなければならない要因を分析し、根本の原因をなくす政策を取らなければならない。詳細な分析をする時間はないが、高齢者に関しては年金問題、母子世帯およびその他の世帯に関しては就労の問題(失業保険を含む)、障害者/傷病者に関してはその他の保障制度が不十分であることが問題であるように思える。なお不正受給は0,4%と言われているので、過大評価も過小評価もするべきではない。

参考資料

参考資料1

日本の生活保護行政の問題点

河本氏の生活保護問題はまだ続いているようであるが、特に週刊誌の記事は生活保護行政の問題と個人の問題を区別していない。今回の「事件」によって、生活保護行政の変化に弾みがつくものと思われるが、その議論は科学性、客観性にもとづいて行われなければならず、不必要に感情論、政治性を持ち込むべきではない。とりわけ今回の事件は週刊誌のスクープが発端であり、週刊誌の記事がどこまで正確であったか、私が言うまでもないと思う。一部の新聞では読者からの情報を載せているが、これも問題である。読者からの情報自体が問題なのではなく、その情報がどこまで正確かが不明なことである。場合によっては間違ったあるいは誤解した情報であることもある(一部の国会議員の無責任な発言も問題である)。

日本の生活保護行政は直接フォローしてないが、以前仕事上で関係者と話しをする機会があった。日本の生活保護行政はいくつかの問題がある。
1.経済的自立のための支援が不十分
生活保護はただ単に給付を行うだけの業務ではない。申請者が生活保護を申請するためには種々の理由があるが、特に就労可能な年齢層に対しては経済的自立のための支援を行うことが重要である。しかし職業安定所との協力もなきに等しいと聞いている。特に就労可能な人たちに関しては、生活保護の最大の目的は経済的に自立できるまでの一時的な援助であり、経済的自立のための支援策がより重要である。
2.他の社会保障制度が貧弱
生活保護受給者のおよそ半分は高齢者であり、その原因は年金であると思われる。無年金者あるいは年金が十分でない高齢者の最低保障をどうするかということがまだ解決されていない。この結果、これらの人たちは生活保護が収入源になる。本来、生活保護制度は一時的な援助として捉えるべきできであるが、他の社会保障制度が貧弱なためにそれらの社会保障でカバーされず、生活保護に頼らざるを得ないということになりやすい。
3.職員不足と能力不足
福祉事務所の職員が不足していることは以前から指摘されていた。しかしこのために各地方自治体および厚生労働省はどの様な対策を取っていたのであろうか。また資格という点からも、すべての社会福祉主事が大学での専門教育を受けているわけではない(ただ単に、職員の人数および能力だけではなく、生活保護行政の質はどうなのであろうか)。生活保護は単純に生活保護費は支払うだけの制度ではないにもかかわらず、職員不足などの理由によって、必要な自立支援などの援助ができてないのではないかと思う。
4.医療扶助の問題
生活保護費総額のおよそ半分が医療扶助であり、やはりこれは異常である。大きな改革が必要である。単純計算で、医療扶助費を20%減らすだけで、生活保護費総額は10%減らすことができる。

生活保護費の減額も以前から話題になっていたが、結論が出ていなかったと思う。問題点は一定の条件下で生活保護費が他の給付を上回ることである。生活保護と他の給付(たとえば国民年金)とは考えも、計算方法も異なるにもかかわらず、単純に額だけで比較するのは無理がある。そもそも国民年金だけで生活できるのであろうか。やはり年金制度上の問題を生活保護(福祉)で解決せざるを得ないという制度上の問題(あるいは制度上の問題解決を怠ってきたこと)が一番大きいであろう。この問題を解決しない限り、表面的な支給額あるいは保護世帯数の変化だけを比較しても何の意味もない。

プロフィール

Taro

Author:Taro
OKUMURA CONSULTING社代表
Sweden

スウェーデンの社会政策などを日本に紹介する仕事をしています。
詳しいプロフィール

カウンター
検索フォーム
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
最新コメント
カテゴリ
RSSリンクの表示
リンク