fc2ブログ

現金給付と現物給付

 北欧諸国は「高福祉高負担」呼ばれることが多いが、あまりその後の議論が無いように思える。以下の表はOECD統計によるGDP比の社会支出率(公的機関のみで、いわゆる社会保障率に近い)を表している。1990年頃には、スウェーデンはGDP比でおよそ26%、日本はおよそ11%であった。しかし2015年にはそれぞれ22%、25%に変化している。日本は1990年から増加しているが、スウェーデンは90年代初頭を除き、ほとんど変化がない。

 あまり日本では報道されないのは、これらの社会支出を現金とサービスとに分けた場合の変化である。1990年に、それぞれ15%および6%であった現金の社会支出は徐々にその差が縮まり、2012年には同率(11.7%)になり、両国間の差はほとんど存在しない。なお他のところで書いたように両国の税制度などが異なり、スウェーデンでは社会保障給付にも課税されるため、課税分と二重計算されていることに注意する必要がある。
 一方、サービスで見てみると、両国間の差は1990年に5.8ポイントであったが、2015年には若干その差は3.3ポイントまで縮まり、GDP比の社会支出の差は公的機関の社会保障サービスの差だと言うことが出来る。なおこれらの数字はあくまでGDP比での社会保障率であって、所得分配に関しては一言も述べていないことに注意する必要がある。

図1


2019年5月13日追加
 OECD加盟国の社会支出率(GDP比)を現金給付と現物給付で分けた散布図を作ってみた。相対的に現物給付に力を入れるか、現金給付に力を入れるか、加盟国によって大きく異なる。相対的に現金給付は大きいが、現物給付は小さい国は散布図の右に位置するイタリアとギリシャである。反対に現物給付が大きい国は北欧諸国で、現金給付のレベルは中ぐらいである(フィンランドの現金給付率は他の北欧諸国よりも大きい)。そして社会支出率が一番大きいフランスは右上に位置し、現金給付と現物給付が両方ともそこそこ大きい。

Cash and service1

家族人数と等価計算

どの国でも家計の可処分所得の比較を行っている。その場合問題となるのは家計の構成員の人数および年齢である。たとえば夫婦と子供一人の世帯は単身者の世帯に比べて必要な消費量はどれだけ多いだろうか。このためにスウェーデンでは消費単位という言葉が使われる。

スクリーンショット

この計算方法を使えば、夫婦と15歳の子供一人の消費は2.03(=1.51+0.52)になり、単身世帯に比べて2.03倍の消費が必要である。もし家族の可処分所得が4万クローナの場合、一消費単位あたりの可処分所得は19704クローナ(=40000/2.03)になる。家計の可処分所得などの比較においては、この計算方法は使われる。EUでもよく似た計算が使われているが、日本はOECDと同じく(年齢に関係なく)家族人数の平方根を使っている。この結果、日本の方が家族の人数効果を大きく取っている。

スクリーンショット1

日本がなぜこのような計算方法を使っているかは不明であるが、多分OECDで使っているからだと思われる(なおOECDの計算方法が最適だという理由ではなく、OECD諸国は統計が不十分な国も含むのでこのような簡易的な計算が使われると思われる)。

社会保障給付費

日本の新聞を読んでいると、「社会保障費削減」という言葉が出ない日はない。スウェーデンではこのような言葉の使い方はされない。まず公的予算は景気の一サイクルにおいてGDP比の0.33%の黒字運営が求められている。赤字運営を繰り返すことは出来ない。そして27の国家予算分野に関しては春予算において向こう3年間の枠組みが決定される。そしてこの決定にもとづき9月には来年度の予算が提出される。なお年金を除く国のすべての出費がこの予算案に含まれる。

日常においても社会保障費という言葉はあまり使われない。毎年EUは社会保障統計を発表するが、マスコミではGDP比での数字が引用されるのみである。その代わりに社会保障の各分野の(名目)費用は話題に上がることが多い。最近では傷病給付費、パーソナルアシスタント費用などである。

スウェーデンではGDP比の社会保障給付率自体は問題とされない。社会保障給付率が問題となるのは中期的に社会保障給付率が経済成長を上回るときである。特にスウェーデンは小国なので、経済成長に合わせて社会保障給付率が変化する割合も高いように見受けられる。1990年代初頭はスウェーデンはマイナス成長で、その結果GDP比の社会保障給付率も高くなった。その後20年間は社会保障給付率に多少の上下はあるが、大きな変化はない(GDP比での公的負担率も同じ問題である)。

日本での「社会保障費削減」という言葉の使い方は社会保障の制度的問題点を議論しないで数字だけに焦点が行く危険性がある。たとえば年金であれば、原則的に保険料のみで完結する制度を作る必要がある(ただし最低保障は公費での運営が考えられる)。また医療保険、介護保険、年金も保険組合に分かれているので、これが制度の非効率化、格差をもたらしている一要因ではなかろうか。

また社会保障は現物給付と金銭的給付に分けて分析する必要がある。金銭的給付は受給者の可処分所得を高め、社会の消費を増やしているのである。なお国によって金銭的給付には課税されることも多く、名目ではなく課税後の給付額で考える必要がある。

よくスウェーデンは「高福祉高負担」といわれ公的な社会保障率が話題になることが多いが、各国の制度の違いが十分分析されていないようである。その結果、日本とスウェーデンのGDP比の純社会支出割合はほとんど同じであることはほとんど議論されない(純社会支出とは公的な支出に企業独自の私的支出を含み、課税額を差し引いた純支出の割合である)。

社会支出

日本では社会保障額あるいは(OECDによるGDP比の公的社会支出率)がよく話題になる。特にマスコミにおいて全体の額あるいはGDP比の割合のみで、この構成および実質の数字はほとんどの話題にならない。OECD統計から各分野ごとの数字を上げてみた。

スクリーンショット

これによると、2013年度のGDP比の公的社会支出は、スウェーデン27.6%、日本23%である。これを見ても分かるように、日本の高齢(年金)および保健医療はOECD平均よりも大きく、公的社会支出率が日本よりも大きいスウェーデンよりも大きい(「高齢」はOECD加盟国で7番目、「保健」は6番目で一番大きいというわけではない)。一方では、厚生労働省統計において福祉その他と名付けられているその他の項目は「遺族」を除いて、OECD平均よりも少ない。たとえば日本の障害などは数字自体は大きくないが、OECD平均の半分、住宅、労働市場では半分以下である(家族政策分野では62%)。日本の社会保障議論においては、「高齢者に手厚い社会保障」と良くいわれるが、どこが高齢者に手厚いのか不明である。日本の高齢化率を考えれば、特に大きい数字ではない。しかし貧困率などから見ると特に手厚いとは言えない。たとえば日本のいわゆる貧困率は16.1%(OECD加盟国で7番目に高い)であるが、65歳以上の高齢者を見ると19%(OECD加盟国で9番目に高い)になる。

また興味があるのは社会支出が現金か、現物かと言うことである。スウェーデンと日本におけるGDP比での現金給付はほぼ同じであるが、現物給付(社会サービス)の方が現金給付よりも大きい(現物給付の割合が50%を越しているのは、チリ、イギリス、アイスランド、韓国、スウェーデン、アメリカで、各国の制度の違いによる)

またもう一つの違いは現金給付の位置づけである。スウェーデンでは生活保護を除いて病気による欠勤、失業手当などの収入に比例した給付は課税されるのが普通である。このため、公的支出に課税分が含まれている。また給付ではなく、税金からの控除という形を取る国もあり、その国際比較には注意を要する。

たとえばスウェーデンの公的社会支出はGDP比で27.4%であるが、課税分などを考慮した純公的社会支出率は22.9%になる。なお日本はそれぞれ23.1%、22.1%である。一般的には高福祉国と呼ばれる国ほど、課税される給付は多い(課税される割合が高いのはデンマーク、フィンランドと続き、スウェーデン4.5ポイント、日本0.9ポイントで、課税される給付が1ポイント以下の国はOECD諸国の中でわずか6ヶ国である。)。

政府が使う三分法(医療、年金、福祉その他)は誤解を生んでいるのではなかろうか。厚生労働省および国立社会保障・人口問題研究所などの分析ではこれらの機能分析が使われているが、他の国との比較は行われていない。OECD統計はかなり前から公表され、日本の社会保障の特徴は「福祉その他」によく現れているにもかかわらず、何が他の国との違いかがほとんど伝えられていない。何か政策的意図があるとは思わないが、結果的に「福祉その他」の内容が軽視されたという意味で、関係部署の責任は重いであろう。

資料)https://data.oecd.org/socialexp/social-spending.htm

春の経済政策法案

 スウェーデンでは秋に来年度予算案、春に経済政策法案兼補正予算案が発表される。特に春の経済政策法案は経済政策の方向性を見る上で非常に重要である。これにはもう一つ重要な報告書が含まれている。所得などの再分配分析書である。この春に公表された再分配分析書に目を通してみた。

 スウェーデンでもジニ係数は増えているが、人口変化によるジニ係数の影響が載っていた。結論から言うと、単身世帯の増加の影響が大きい。ジニ係数増加のおよそ15%が世帯構造の変化による。高齢者の増加は10%の説明要因であるが、高齢者の増加は全体のジニ係数の増加を軽減している(年金制度の結果)。
 外国生まれの住民の増加は就労率が低いおよび失業率が相対的に高いため、ジニ係数変化の5%を説明している(スウェーデンでは統計上、外国籍ではなく外国生まれが使われる)。なお移民者の労働移民から難民への変化自体は、この分析に含まれていない。この結果が正しければ、政策の方向性というものがある程度見えてくる。

子供の扶養費

2015年12月現在、22万5千人の子供(の親)が社会保険庁から扶養給付を得ていた。なお扶養給付費の最高額は月に1573クローナである。同時に扶養費の計算が正確に行われるならば、離婚した親からより多くの扶養費が得られると社会保険庁は指摘している。
扶養費の計算方式がアップされていた。数字は月あたりである。なお親の余剰額は個人によって異なる。
子供の必要額 3750クローナ
父親の(生活費を越える)余剰額 17341クローナ
母親の余剰額 7006クローナ
両親の余剰額合計 24347クローナ
養育費 2671=3750x17341/24347

これは母親が父親から得られる養育費は、子供の必要額に両親の余剰額に対する父親の余剰額の割合をかけた額になる。これを元にまず自主的な扶養費支払いの計算をして欲しいということである。

なお扶養給付費最高額1573クローナは社会保険庁によって支払われるが、父親はこの全額あるいは一部を社会保険庁に支払わなければならない。

スウェーデンの社会保障費

日本では社会保障費が過去最大になったというニュースが紙面を賑わしている。このような名目での費用比較は統計上意味がなく、スウェーデンではこのような使い方はされない(国民負担と同じく、なぜ財務省がこのような使い方をするかは理解に苦しむ)。そもそも社会保障費というのは事後統計によってわかり、年度予算において各項目ごとの予算はあるが社会保障費という項目があるわけではない。もちろんそれぞれの項目ごとの給付の増大は予算審議などにおいて議論される。
他のブログに書いたことではあるが、社会保障費などは名目価格での時系比較は行われない、中期では物価変動を考量した実質価格での比較あるいはGDP比の比較が使われる。また失業保険給付費用や傷病給付費用などの社会問題である給付と年金のような社会問題でない給付を同じように扱うことは出来ない。

なお国際的にはOECDの社会保障給付統計が使われるが、EUにおいては類似のESSPROS統計が使われる。また社会保障制度は国ごとにその構造が異なるので、最近では純社会支出という概念が使われることが多くなっている。このため、日本政府が公表している社会保障統計は十分比較の問題を考慮して読む必要がある(過去の社会保障費に関しては国立社会保障・人口問題研究所が公表している)。
ESSPROS統計によれば、2012年のスウェーデンの社会保障費はGDP比で29.9%で、課税されて税金として戻る分が3.5%あるので、これを差し引くと26.4%になる。もちろんESSPROS統計に日本は含まれていないが、OECD統計でも同様の計算が行われている。表面的な社会保障費は話題になるが、このように制度の違いを考慮した純社会保障費はあまり話題になってないような気がする。
プロフィール

Taro

Author:Taro
OKUMURA CONSULTING社代表
Sweden

スウェーデンの社会政策などを日本に紹介する仕事をしています。
詳しいプロフィール

カウンター
検索フォーム
カレンダー
02 | 2024/03 | 04
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -
最新記事
最新コメント
カテゴリ
RSSリンクの表示
リンク