社会支出

日本では社会保障額あるいは(OECDによるGDP比の公的社会支出率)がよく話題になる。特にマスコミにおいて全体の額あるいはGDP比の割合のみで、この構成および実質の数字はほとんどの話題にならない。OECD統計から各分野ごとの数字を上げてみた。

スクリーンショット

これによると、2013年度のGDP比の公的社会支出は、スウェーデン27.6%、日本23%である。これを見ても分かるように、日本の高齢(年金)および保健医療はOECD平均よりも大きく、公的社会支出率が日本よりも大きいスウェーデンよりも大きい。一方では、厚生労働省統計において福祉その他と名付けられているその他の項目は「遺族」を除いて、OECD平均よりも少ない。たとえば日本の障害などは数字自体は大きくないが、OECD平均の半分、住宅、労働市場では半分以下である(家族政策分野では62%)。単純に言えば、力を入れていないと言うことである。

また興味があるのは社会支出が現金か、現物かと言うことである。スウェーデンと日本におけるGDP比での現金給付はほぼ同じであるが、現物給付(社会サービス)の方が現金給付よりも大きい(現物給付の割合が50%を越しているのは、チリ、イギリス、アイスランド、韓国、スウェーデン、アメリカで、各国の制度の違いによる)

またもう一つの違いは現金給付の位置づけである。スウェーデンでは生活保護を除いて病気による欠勤、失業手当などの収入に比例した給付は課税されるのが普通である。このため、公的支出に課税分が含まれている。また給付ではなく、税金からの控除という形を取る国もあり、その国際比較には注意を要する。
たとえばスウェーデンの公的社会支出はGDP比で27.4%であるが、課税分などを考慮した純公的社会支出率は22.9%になる。なお日本はそれぞれ23.1%、22.1%である。一般的には高福祉国と呼ばれる国ほど、課税される給付は多い(課税される割合が高いのはデンマーク、フィンランドと続き、スウェーデン4.5ポイント、日本0.9ポイントで、課税される給付が1ポイント以下の国はOECD諸国の中でわずか6ヶ国である。)。
資料)https://data.oecd.org/socialexp/social-spending.htm


春の経済政策法案

 スウェーデンでは秋に来年度予算案、春に経済政策法案兼補正予算案が発表される。特に春の経済政策法案は経済政策の方向性を見る上で非常に重要である。これにはもう一つ重要な報告書が含まれている。所得などの再分配分析書である。この春に公表された再分配分析書に目を通してみた。

 スウェーデンでもジニ係数は増えているが、人口変化によるジニ係数の影響が載っていた。結論から言うと、単身世帯の増加の影響が大きい。ジニ係数増加のおよそ15%が世帯構造の変化による。高齢者の増加は10%の説明要因であるが、高齢者の増加は全体のジニ係数の増加を軽減している(年金制度の結果)。
 外国生まれの住民の増加は就労率が低いおよび失業率が相対的に高いため、ジニ係数変化の5%を説明している(スウェーデンでは統計上、外国籍ではなく外国生まれが使われる)。なお移民者の労働移民から難民への変化自体は、この分析に含まれていない。この結果が正しければ、政策の方向性というものがある程度見えてくる。

子供の扶養費

2015年12月現在、22万5千人の子供(の親)が社会保険庁から扶養給付を得ていた。なお扶養給付費の最高額は月に1573クローナである。同時に扶養費の計算が正確に行われるならば、離婚した親からより多くの扶養費が得られると社会保険庁は指摘している。
扶養費の計算方式がアップされていた。数字は月あたりである。なお親の余剰額は個人によって異なる。
子供の必要額 3750クローナ
父親の(生活費を越える)余剰額 17341クローナ
母親の余剰額 7006クローナ
両親の余剰額合計 24347クローナ
養育費 2671=3750x17341/24347

これは母親が父親から得られる養育費は、子供の必要額に両親の余剰額に対する父親の余剰額の割合をかけた額になる。これを元にまず自主的な扶養費支払いの計算をして欲しいということである。

なお扶養給付費最高額1573クローナは社会保険庁によって支払われるが、父親はこの全額あるいは一部を社会保険庁に支払わなければならない。

スウェーデンの社会保障費

日本では社会保障費が過去最大になったというニュースが紙面を賑わしている。このような名目での費用比較は統計上意味がなく、スウェーデンではこのような使い方はされない(国民負担と同じく、なぜ財務省がこのような使い方をするかは理解に苦しむ)。そもそも社会保障費というのは事後統計によってわかり、年度予算において各項目ごとの予算はあるが社会保障費という項目があるわけではない。もちろんそれぞれの項目ごとの給付の増大は予算審議などにおいて議論される。
他のブログに書いたことではあるが、社会保障費などは名目価格での時系比較は行われない、中期では物価変動を考量した実質価格での比較あるいはGDP比の比較が使われる。また失業保険給付費用や傷病給付費用などの社会問題である給付と年金のような社会問題でない給付を同じように扱うことは出来ない。

なお国際的にはOECDの社会保障給付統計が使われるが、EUにおいては類似のESSPROS統計が使われる。また社会保障制度は国ごとにその構造が異なるので、最近では純社会支出という概念が使われることが多くなっている。このため、日本政府が公表している社会保障統計は十分比較の問題を考慮して読む必要がある(過去の社会保障費に関しては国立社会保障・人口問題研究所が公表している)。
ESSPROS統計によれば、2012年のスウェーデンの社会保障費はGDP比で29.9%で、課税されて税金として戻る分が3.5%あるので、これを差し引くと26.4%になる。もちろんESSPROS統計に日本は含まれていないが、OECD統計でも同様の計算が行われている。表面的な社会保障費は話題になるが、このように制度の違いを考慮した純社会保障費はあまり話題になってないような気がする。

給付にカードを利用

先日、大阪市で生活保護の支給およびチェックにカードを利用するというニュースが出ていた。よく似た制度はスウェーデンもあるが、その機能および目的は全く異なっている。

スウェーデンでは生活保護以外の社会保障給付は社会保険庁から行われる(年金の取り扱いは年金庁であるが、給付は社会保険庁から行われる)。生活保護は市の担当で、市が給付を行う。普通、受給者の銀行口座に振り込まれる。このため給付を受けるためには銀行口座が必要である。しかし何らかの理由で銀行口座がない場合はどうするのであろうか。この典型的な例は国の担当である難民申請者である。
難民申請者が施設で生活している場合は食事付きで、1日24クローナ(400円ほど)の小遣いが給付される(施設でない場合は71クローナ)。難民申請者は個人番号がないため、スウェーデンに銀行口座も開けない。このため今までは現金で支給していた。この給付をどの様にして効率化出来るかが話題になっていて、2006年からICAというスーパーマーケット系列のカードを使用している。今年だけで、10万枚のカードを発行するようである。最低条件はICA系列のお店だけでなく、他の店でもカードが使えることで、このためにマスターカードの機能が含まれている。
このカードには名前が記載されていなくて、移民庁の参照番号のみである。移民庁が支給を決定すると、これはオンラインでICAバンクに連絡され、カードの保持者は次の日から暗証番号を使ってこの額が使用可能になる。ICAバンクがカード保持者の個人情報にアクセスできるわけではない。移民庁のみがカードの参照番号に保持者の氏名をリンクできる。もちろんこのカードの使用は給付の簡素化、所持者の便利性であり、移民庁が給付額の使用用途などをチェックする必要性はない。
カードに名前ではなく参照番号のみが載ってるということはもう一つの利点がある。たとえば何らかの保護を必要とする人もこのカードを利用することによって、現住所を知られることはない(スウェーデンでは住民登録情報は公開なので、個人番号によって住所を知ることが出来る。なおカードには個人番号はのっていない)。ヨーテボリ市では何らかの理由によって銀行口座が利用できない人のためにこのカードを使用するというニュースが出ていた。
銀行はこれをビジネスとして行っていて、主な収入源は国が支払うカード発行料および現金を引き出す場合の手数料である。

なお大阪市で話題になっている「指導の必要がある」使用目的などは、スウェーデンでは全く話題になっていない。そもそも生活費を除く住居費などは領収書の提示によって支給される。生活費の額は国で決まっているが、その使用目的は直接チェックされない。たとえば一食減らして賭け事に使うあるいは酒を飲むのは、これが合法である限り市民である生活保護受給者の行動を制限できない。もちろんこの結果、自立した生活に影響することは考えられるが、これは定期的な面会などで助言できることである(例えば酒飲みであれば、酒を断つあるいは減らすコースに行くことが援助として決定される)。

他の記事も読んでみたが、この制度は問題点だらけで、三井住友カードと富士通総研が将来のビジネスにするための実験のような気がする。

社会給付

スウェーデンは就労率80%を目指しているが、このために「Number of full-year persons receiving social assistance and benefits」の時系的変化が分析されている。それぞれの給付の変化のみを追っていては全体の変化がわからないからである。この統計には、市の生活保護、失業基金の失業保険給付、社会保険庁の傷病給付、早期退職給付および労働市場庁の労働市場プログラムの参加者統計が含まれている。なおこの統計の単位は総人数ではなくて、年間人数である。たとえば生活保護を半年、失業保険給付を半年受けていれば、それぞれが0,5人分にあたる。
1990年からこの統計が取られているが、受給者が一番大きかったのは1994年の115万4千人で、これは20-64才人口の22,7%にあたる。その後、受給者数および割合は減少し、2012年現在受給者数80万人、人口比14,4%であり、これは1990年の割合とほぼ同じである。

社会給付
(統計庁資料より)

A swedish tax-benefit simulation model

スウェーデンの個人番号はただ単に「管理」するために使われるのではない。政策の影響予測や評価にも使われる。そのひとつの例はFASIT(A swedish tax-benefit simulation model)と呼ばれるデータベースである。このデータベースは統計庁が家計調査などから作成し、財務省、国会の調査局、他の研究機関が利用する。
このデータベースは毎年およそ200万人の課税情報、社会保険の給付情報などが集められ、課税および給付の条件がプログラム化されている。そして財務省などは例えば住宅手当を月に100クローナ増額すれば、国の負担はいくら増える、各所得者層ごとの可処分所得の変化などの計算ができる。このようにして予算時には政策変更に伴う影響を予測分析することが多い。なお所得情報は確定所得なので2年前の数字であり、ここから数年間の所得の変化も予測される。

統計庁のすべての情報は秘密守護法によって守られていて、特例は研究目的での匿名化された情報である(匿名化された個人情報には通し番号が振られ、統計庁が個人番号と通し番号を結ぶ鍵を持つ)。以前は使用を認められた各研究機関に匿名化された情報をCD/DVDで提供していたが、最近は統計庁のデータベースに直接アクセスするようになった。財務省などの外部の機関はデータベースにアクセスして計算、分析するのみである。またこのデータベースは各年の抽出であり、個人の年ごとの変化を見るものではない。パネル調査のために、統計庁はLINDAと呼ばれる別のデータベースを設置している。
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Taro

Author:Taro
OKUMURA CONSULTING社代表
Sweden

スウェーデンの社会政策などを日本に紹介する仕事をしています。
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