スウェーデンの政治状況

今年の9月9日は国会、県議会、市議会の統一選挙である。選挙を前にして、政治世論はどうなのであろうか。世論調査は世論調査会社がほぼ毎月行っていて、新聞に掲載される。ここでは統計庁による政治世論調査の結果を引用したい。統計庁の調査は半年ごとに行われるだけであるが、標本数はほぼ9千人で、民間調査会社に比べてほぼ9倍である。

「もし今、選挙であればどの党に投票しますか」(2018年5月)2014年の国会得票率との差
スクリーンショット 2018-06-18

C 中央党 L  自由党 M 穏健党 KD キリスト教民主党 S 社民党 V 左翼党 MP 環境党 SD スウェーデン民主党 Övr その他

2018年5月現在、最大の党は社民党で得票率28.3%である。二番目に大きいのは穏健党で22.6%の得票率、3番目の党は極右であるスウェーデン民主党で、18.5%の得票である。2014年の得票率に比べると、一番得票率を増やしたのはスウェーデン民主党で、2014年に比べて5.6ポイント得票率を増やしている。また中央党も2.6ポイント得票率を増やした。一方では、一番得票率を減らしたのは社民党で2.7ポイントの減少である。社民党と組閣している環境党も2.6ポイント減らした。なおキリスト教民主党の得票率は2.9%まで減り、この傾向が続くならば国会の議席を失うことになる。

興味があるのは選挙以降の得票の流れである。まずスウェーデン民主党を見てみると、大きな得票の流れは社民党から2.5ポイント、穏健党から2.2ポイントで、その他の党からは0.2-0.3ポイントの変化である。社民党に関しては、まず環境党から0.9ポイントの流入がある。しかし社民党からスウェーデン民主党に2.5ポイント流出している。また左翼党に0.6ポイント、穏健党に0.7ポイント移っている。次に減少割合が大きい環境党は大きい順に社民党、中央党、左翼党、スウェーデン民主党に票が流れている。

もしこの傾向が続くと、極右であるスウェーデン民主党と組閣する党はないと思われるので、組閣は今までで一番困難になると思われる。

来年は選挙

来年の9月9日は統一選挙である。今日の新聞によると、選挙で話題になると思われる5つのテーマが載っている。

1.福祉分野における利益制限。
福祉、医療、教育分野における民営化はスウェーデンの政治において一番大きい問題である。政府委員会は福祉分野の利益制限案を公表し、現在これが議論されているが、最新の情報によると政府は次期選挙において利益制限案を国民に問い、新政権において利益制限案を国会に提出すると述べている。現在、社民党、左翼党、環境党が利益制限案に賛成で、保守党などは反対である。

2.新規移民や青少年などのために低賃金労働の導入
移民者や青少年のために賃金が低い労働を導入する案は以前から話題になっていた。今回、保守党などは最高3年間正規給与の70%に相当する特別な就労制度を導入する案を出している。社民党はスウェーデンモデルに反するものであるとして反対している。

3.病院における待機期間削減
病院における待機期間は常に政治的問題になっている話題であるが、この解決方法は各政党ごとに異なる。与党は医療機関への国庫補助を考えているが、中央党は小さな診療所を開く可能性を増やすことを案として出している。

4.難民政策の規制緩和?
難民申請の急増に対して、スウェーデン政府は一時的な制限案を可決し、来年度この制限案の期限が切れる。このため各政党間で、その後の対応策が議論されている。特に極右政党は難民あるいは移民者受け入れを選挙の話題にしようとしている。

5.最近話題になっているのは中欧諸国からの物貰いの増加である。街頭などでの物貰いを禁止することに対して、世論の支持は高いが政党間で意見は異なる。現在禁止案に賛成な政党はスウェーデン民主党と穏健党でいる。物貰いの禁止案がどの程度効果があるか不明であるが、司法分野でシンボル的な意味を持っている。

なお野党の支持率は減少しているので、その存在感を示さなければならないという背景もあり、選挙までは対立が続くものと思われる。

アルメダール週間

今日から10日まで、ゴットランド島のヴィスビュ市において、スウェーデンで最大の政治週間が開かれている。中心となる公園の名前がアルメダーレン(Almedalen)であることからアルメダール週間と言われる。
1968年に夏のバケーションで島に滞在中であった当時のパルメ教育大臣が、トラックの荷台から演説したのが始まりである。1981年にはすべての党が参加するようになった。今年はおよそ3800の催しが行われる。各党それぞれの日が設けられていて、政治、経済、社会問題など、広い話題について議論/講演が行われ、新聞、テレビは連日中継、報道を行う。

スウェーデン的なのは国の専門機関も参加していることで、例えば高齢者ケアであれば社会庁が参加して現状の問題および対応などについて講演、意見交換を行う。同様にして、社会保険庁や統計庁も参加して担当分野の議論を行う。


Olof_Palme_1968.jpg

トラックの荷台で演説するパルメ教育大臣、1968年。スウェーデン語版Wikipediaより


アルメダール週間(英語)

過去のアルメダール週間(写真)

2016/07/03加筆、修正

経済政策法案

この15日に春予算が発表された。同時に補正予算も提出されたが、春予算の大きな目的は秋に提出される来年度予算に向けての経済政策である。この中で、社民党政権は4つの問題点を挙げている。
1.労働および競争力。2007年以降の生産性の伸びは低い。失業率は高い。
2.教育。教育の比較調査によると、以前に比べてまた他の国に比べてレベルが落ちている。
3.環境。現在の政策はまだ不十分。
4.社会保障/福祉。在宅介護のために14万人が労働時間を減らしている。OECD諸国の中で一番、失業保険が弱体化している。

これらの問題点を背景として、改革案が提案された。
1.大学、成人教育、国民高等学校などで、2015年から2019年まで合わせて8万5千人、学生を増やす。
2.職業訓練と就労を組み合わす制度の導入。新規雇用制度の改善。職業安定所の予算増加。
3.教師、校長の能力開発。成績が低い学校への援助、新しい移民生徒のための援助、生徒の医療衛生の強化、
4.自然保護の強化、地域における排気ガス削減のための投資
5.別居手当(子供の養育費)の増額、失業保険制度における基礎額および最高額の増額、高齢者のための住宅手当の増額、保障年金額の増額、高齢者ケアにおける職員配置の強化、近親者の介護のために就労時間を減らしている人の削減対策。分娩医療の強化。女性センターへの財政援助強化。

このための予算は2015年から2019年まで、それぞれ80億、200億、224億、231億、188億クローナである。財源は青少年雇用における社会保険料減額の廃止およびその他の収入増加である。特に2017年からは収入増加がこれらの出費を上回り、2019年には52億クローナの黒字となる。

改革のうち、主に次の変更が考慮されて経済的水準に関する影響も計算されている。
1.失業保険給付の1日当たりの最高額が680クローナから910クローナまで増額される。なお100日目以降は760クローナまで減額。
2.失業保険給付の最低額が320クローナから365クローナまで増額。
3.離婚の際の養育費を子供一人1月あたり300クローナ増額。
4.高齢者のための住宅手当を93%から95%に増額。

これによって第1十分位の経済的水準は0.87%増加し、所得が上がるほど、この増加率は減少する。ジニ係数は0,306から0,305に減少(メジアン値の60%を使用)。また女性の方が男性よりも増加率はほぼ倍である。
所得分配調査は、国会の決議にもとづき1994年以降毎年公表され、これらの分析のためにFASITと呼ばれるマクロシュミレーションモデル/データベースおよびHEKと呼ばれる家計調査データベースが使用されている。

財務大臣は以下のように結論づけている。「雇用増加、競争力の強化、平等な知識学校、良い環境、福祉および安心の増加に力を入れる。これらは減税および民営化に優先するものである」

政府の英語ページ

スウェーデンの議員

スウェーデンの議員統計が公表されたので、いくつか引用する。
国会議員に占める女性の割合は若干減少し、43,6%になった。女性議員の割合が一番高いのは左翼党の57%、次に穏健党の52%で、一番低いのはスウェーデン民主党22%、自由党26%である。
18-29歳はおよそ11%で、2010年に比べてほぼ倍になった。なお65歳以上はおよそ3%で、30年間で大きな変化はない(1-4%)。党派別ではスウェーデン民主党が一番18-29歳の議員の割合が高く、次に環境党16%、左翼党14%である。意外にも社民党は5,3%と政党の中で一番29歳以下の若年者の割合が低い。
外国生まれ(もちろんスウェーデン国籍)である議員はおよそ8,3%で、2010年から増加している。政党別では左翼党が24%で、外国生まれの割合は一番高い。中央党はゼロである。キリスト教民主党における外国生まれの割合は10%で5番目であるが、両親が外国生まれでみると左翼党に続いて二番目に大きい。

県会議員では女性の割合は47,5%で、政党別では環境党が一番大きくおよそ55%、自由党52%である。。
29歳以下の議員は増えてはいるものの、まだ8%である。その代わり65歳以上は15%である。穏健党とスウェーデン民主党における29歳以下の議員の割合は平均よりも高い。
外国生まれは8,3%で、今までで最高である(外国籍の割合は不明)。

市会議員における女性の割合は43,7%で、今までで一番大きい。政党別では環境党およそ52%、左翼党51%である。29歳以下の議員は8%、65歳以上の議員は19%で、これらの年齢層の割合は増加している。
外国生まれの割合は7,7%で、今までで一番大きい。党派別では環境党がおよそ15%、左翼党がおよそ12%である。また両親が外国まれの場合は穏健党、環境党、社民党、スウェーデン民主党が2,3-2,5%である。

任期が終わるまでに辞める議員は意外にも多い。国会議員では10%で、29歳以下の議員はおよそ12%である。同様にして県会議員では14%、29歳以下の議員は30%になる。市会議員ではおよそ19%、29歳以下の議員は44%と一番高い。若年層の議員が辞める理由は色々と言われているが、第1には議員職は一生続ける職業と思われていないこと、第2に議員になってみたものの、なかなか自分たちの意見が生かされないことへの不満があるものと思われる。なお議員が辞職しても各政党の次点者が繰り上がるので、運営上は大きな問題とはならない。

地方自治体における政治的状況

他のブログで述べたように、国政面においては混乱状況が続いている。地方自治体ではどうだろうか。今回、保守政党は議席数を減らした。この結果、政権を失った市も多い。2010年の選挙によって、290のうち142の市において保守ブロックが政権を取っていた。左翼ブロックは110で、残りの38の市において革新ブロックと保守ブロックの「連立政権」であった。

今回、290のうち110の市で政権が変わり、保守ブロックが政権を取っている市は142から91に減少し、左翼ブロックが政権を取っている市は110から99に減少した。そして革新ブロックと保守ブロックの「連立政権」は38から100まで急増した。また少数与党内閣は41から92に増えている。

なお保守ブロックが政権を握っている県は9から5に減り、反対に左翼ブロックが政権を握った県は9から12に増えている。革新ブロックと保守ブロックの「連立政権」である県は2から3に増えた。

このように、地方自治体において連立政権が多いのは、地方自治体では国政面ほどのイデオロジー的対立は少ないからである。

備考)スウェーデンの市では住民から直接選挙で選ばれる市長はいない。議会が数名のコミッショナーを選び、財政担当コミッショナーが対外的には市長と自己紹介する。県も同じである。他の議員が兼務であるのに対して、コミッショナーはフルタイムの政治家である(スウェーデンの議員は兼務であると日本で紹介されることがあるが、不正確である)。


選挙と青少年

スウェーデンの選挙結果が日本語でも紹介されているが、中には誤解を与える記事もある。そこで青少年の選挙参加がどの様な状況なのかと選挙庁のホームページで調べてみた。

29歳以下の国会議員候補は全体の13%で、この割合が一番高いのは社民党の17.7%である。選ばれた国会議員の中で29歳以下は10.9%で、割合が一番高いのはスウェーデン民主党の20.4%である。

スクリーンショット 2014-12-09

同様にして29歳以下の県議員候補は10.3%、県会議員では8:6%になる。県議会で29歳以下の議員割合が一番多いのは穏健党(M)で、11.8%である。
同じく市議会選挙においては、候補者の9.4%、議員の8.1%が29歳以下である。
意外だったのは、29歳以下の議員が占める割合が国会が一番高く10.9%で、県議会と市議会はそれぞれ8.6%、8.1%であることである。

前回(2010年)の選挙における特別調査によると、青少年(18-24才)の投票率は79%で、全体の投票率(84.6%)より低いものの、80歳以上の高齢者よりも高い(70.5%)。なお今回の国政選挙における投票率は85.8%である。


プロフィール

Taro

Author:Taro
OKUMURA CONSULTING社代表
Sweden

スウェーデンの社会政策などを日本に紹介する仕事をしています。
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