アエラへの投稿

前略
 ここスウェーデンも先週から夏時間になり、暦の上では春になりました。さて私はここスウェーデンで福祉関係のコ−ディネ−タをするかたわら、日本の雑誌等にスウェーデン通信を書いております。残念ながらアエラは購読しておりませんので、毎回読めるわけではありませんが、この度知りあいよりスウェーデンについての記事(「福祉の国」の新たな実験、「福祉は経済力あってこそ」3月21日号)を送っていただきました。この記事の中で事実誤認、一方的な見解だと思われることがありますので、これを書いてみたいと思います。

1.医療費のうち、患者の負担額は約9%、県59%、医療保険23%、市が残りです。
2.92年の改革の対象になったのは、主に県自治体によって運営されていた老人病院で、ナ−シングホ−ムとして市に移行されたが、市は県自治体の下にあるものではありません。なお現在市の数は286です。
3.ストックホルム市の高齢者介護にて施設ごとに入札させて、安い施設に介護を委託しているのではありません。入札にかけられているのは施設の運営であって、施設の運営が市営か、民営(株式会社、職員協同組合)かの違いです。そして仮に運営が市から民営になっても、普通職員はそのまま残り民間職員となります。
4.記事の中にあるシルカ・トイビネンという人が働いているのは「ブルンスゴ−デン」というナ−シングホ−ムで、ここはもともと県の老人病院で、92年の改革により市に移行され、その後そこの職員が協同組合を作って運営されているもので、職員が病院から転職したわけではありません。
5.市の介護施設になったことと自己負担額との増額は直接関係がありません。ナ−シングホ−ムは92年の改革前は医療施設として入院費を払うだけでよく、福祉施設としての「老人ホ−ム」等に於ける入居費と大きな差がありました。改革のもう一つの目的はナ−シングホ−ムを医療施設ではなく「福祉施設(住居)」とすることにより、介護の形態にかかわりなく入居費にあまり差が出ないようにすることでした(その結果ナ−シングホ−ムの入居費は高くなる)。
6.「福祉は経済力あってこそ」という題は正に正論ですが、問題は一部の経済学者が言っているように「福祉を優先したから経済が悪くなったかどうか」或るいは現在の経済問題の原因は何かと言うことです。現在の経済危機として経済不況と財政赤字が上げられます。経済不況の原因は第 1には欧州の景気の悪化で、第 2には80年代後半の景気引き締め策に失敗し、バブル経済破裂による影響が90年代に出てきたことが上げられます。財政赤字についてはこれは今までにもありましたが、今回の赤字が以前と違うのは第 1には90年前後から再び悪化していること、第 2には91年の減税が赤字の大きな原因になっていること、第 3には80年代の資本市場の自由化の結果により金融機関が大きな赤字を出し、それに対して政府は援助を行わざるを得なかったこと、第 4には戦後最大の失業率のために失業対策費の増加が上げられます。第 5に今までは民間セクタ−の失業が増えても、公共セクタ−で一部吸収することが出来ましたが、現在は財政赤字自体が公共セクタ−の縮小、職員の減少という形で、失業率を高めています。
7.「大きな政府は社会の足かせ」になる、或いは「経済成長を阻害する」とよく言われますが、本当にそうでしょうか。生産性の低い公共部門に多くの人が働いているから問題だと言われますが、仮にこれらの部門(例えば高齢者福祉或いは医療)がすべて民営になれば生産性は上がるでしょうか。例えばアメリカの医療は生産性或いは効率性が高いでしょうか。また経済成長率と公共セクタ−の大きさ、或るいは税金の高さとの相関関係は証明されていません。これを証明するためには例えば現在の先進諸国の中で、福祉に力を入れてない国の方が成長率が高い或るいは失業率が低いと言うことも同時に証明しなければなりません。実際にスウェーデンでは80年頃から公共セクタ−の支出は増えていませんし、85年からは公務員の人数は減っています。
8.スウェーデンでは仕事に対する意欲の低下、福祉サ−ビスの効率、質の低下が起こったと一部の人は言いますが、こじつけ的な理由が多いと思います。
9.もちろん「スウェーデンモデル」に問題がないわけでもなく、又この「スウェーデンモデル」と呼ばれるものが常に一定であるわけでもありません。問題は問題意識と因果関係の証明です。スウェーデンはすでに70年代から「福祉に力を入れれば経済は悪くなる」と言われていました。にもかかわらずこれだけの福祉制度を作り上げました。問題は80年代中頃から出てきました。
10.現在スウェーデンは短期的には傷病手当て、失業手当ての減額等により財政赤字の解消を目指しています。長期的には年金支給年齢の引き上げ、社会保険の特別会計化等により、社会保険の歳出が直接一般会計に影響を与えないように制度の改革が進められています。又福祉部門においては公共セクタ−のさらに効率化を目指して、民間導入が行われています(民営化ではなく、民間委託です)。現在高齢者ケア部門の民間委託率は全国平均で2%ぐらいです(ストックホルムでは約4分の1)。
11.スウェーデンほどその見方が二分している国はないと思いますので、もう少しバランスの取れた記事を望む次第です。

草々  奥村芳孝
プロフィール

Taro

Author:Taro
OKUMURA CONSULTING社代表
Sweden

スウェーデンの社会政策などを日本に紹介する仕事をしています。
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