民営化のスキャンダルか

 医療、福祉、教育における民営化は一番政治的対立が大きい問題である。この9月に「民営化によって効率化されているという証拠はない」という報告書が発表され、大きく話題になった。さらにこの10月中頃にはある日刊紙が民間会社のスキャンダルをスクープした。現在もまだこの事件は続いているが、現状をまとめてみた。

Caremaという会社がストックホルム市で委託運営しているコッパルゴーデンという介護施設で、十分な介護が行われていない、医療の安全が保たれていないなどの問題が明らかになった。さらにストックホルム市近郊の市においても、同社が運営する施設が話題になっていて、両市ともこれらの施設運営委託の契約は破棄される予定である。(施設は市の住宅公社の管理であり、職員も変わらない。変わるのは介護を行っている会社/団体のみである)
区の医療責任看護師がすでにこの問題点を指摘していたが、その内容が十分政治家からなる区委員会に伝わっていなかった。区長が医療責任看護師の報告書を書き換えたことが話題になっており、看護師協会はこの区長を法律違反で訴えることを検討している。すでに区長に対しては区委員会から注意があった。
この施設の嘱託医から問題点の指摘があったが、施設運営会社は医師が業務を十分果たさなかったと反論。施設運営会社および嘱託医は、後日意見書を社会庁に提出。

Caremaという会社はスウェーデンで500ヵ所の介護施設、在宅介護を運営している会社で、Ambeaという会社によって所有されている。Ambeaはさらにリスクキャピタル会社2社によって所有されている。この2社はKKR社およびTriton社であり、前者はアメリカの会社であるが、後者はイギリス海峡のジャージー島(租税回避地として有名)に登録されている会社である。
営利会社による運営に関しては種々の議論があるが、その中でも特にリスクキャピタル会社によって所有されている会社に対しては異論が大きい。その理由は、これらの分野の業務は主に税金によって運営されているが、リスクキャピタル会社との複雑な関係/構造によって、業務の利益が租税回避地に流れ、一部分しか国内で課税されていない。
ストックホルム市の野党は、同社が運営委託するすべての施設の見直しを要求している。
ブログにおいてもいろいろな議論が出ているが、民間介護会社協会は委託契約の見直し、チェック体制の厳格化を訴えている。一見妥当なように見受けられるが、あたかもこれらの事件の責任は市にあって介護会社にはないように受け取れる。
高齢者ケア担当大臣は市は十分監査を行い、職員は問題点を訴えるように意見を述べている。保守党が進めていた民営化において、特にリスクキャピタル会社の業務に就いて意見を述べてないのは不思議である。反対に、財務大臣はリスクキャピタル会社の租税回避を問題視している。

高齢者ケアなどの監査を行う社会庁では、対象施設だけではなく、ストックホルム市のチェック体制の監査も行う予定である。Carema社自体の監査が行われるかどうかはまだ未定である(これは日本で良くあるような金銭的ごまかしではないからである)。
国会の社会委員会は、関係団体および関係行政機関の代表が参加する公聴会を開く予定である。
今回の問題は与党が進めている「選択の自由制度」の将来をないがしろにするものだとして、穏健党は党内に検討委員会を設置すると発表した。

今日(2011年11月14日)ストックホルム市は、Carema社との契約を破棄することおよび現在の入札計画を一時中断することを決定した。これにより、上記施設は市営に戻る。さらにストックホルム市は医師および看護師からなる特別監査部を設け、区の監査を手伝う。
三人の担当大臣(法務、財務、高齢者ケア)は会合を行いいくつかの対策を取ることを発表した。私企業職員の「マスコミに伝達する権利(内部告発など)」を公務員と同じにできるか調査することを決定(公務員に関しては、憲法にそのような権利が明記され、情報の流出源を詮索することも認められていない)(法務)。さらに、高齢者ケア担当大臣は公的運営と私的運営の間に違いがあるかどうか調査することを社会庁に指示した。また財務大臣はこれらのリスクキャピタル会社の税金対策を制限できるように対策を取ることを約束した。ただ相対的に動きが遅いようで、今回の三大臣会合もパニック的な行動のように思える。すでに3年前に行政管理庁は、民間委託に際して質が保証されない危険性があることを指摘していたが、政府は十分な対策を取らなかった。

2013年4月27日追加。
これはカレーマ事件として有名になったが、報道のあり方および内容の真実性に疑問があることも事実である。「確かに問題はあったが、新聞が書いているほどの内容ではない」、「スキャンダルにしたのは新聞である」という意見もある。個人的には、新聞の記事と批判記事の真ん中ぐらいに真実があると思っている。この事件を日本で紹介している記事も存在するが、その読み方には注意を要する。

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