スウェーデンスペシャル

2009年2月(?)にテレビ朝日が開局50周年番組「スウェーデンスペシャル」を放映した。先日、知りあいから番組の録画を手に入れた。かなりこじつけが多い内容である。最大の問題は、制度の違いを十分考慮することなく、日本で話題になっている事項について一方的な/表面的な結論を出していることである。また歴史的考察もされていない。いくつか例を挙げる。

第1は消費税のみに焦点が当てられたことで、負担という観点からは地方所得税および保険料の変化にも触れるべきだった。なぜならば、スウェーデンでは社会福祉の原資は地方所得税、社会保険の原資は雇用税であるからである。

第2に福祉と経済の問題が十分分析されていない。特に90年代初頭の不況以降、スウェーデン経済は経済成長にもかかわらず就労増加に結びつかないという新しい状況に陥った、このためスウェーデンモデルといわれる積極的労働市場政策の有効性に疑問が出されるようになった。スウェーデンの積極的労働市場政策は有名であるが、その他にあまり触れられないのは、「就労戦略」である(社会保障制度における「就労戦略」についてあまり日本では話題になってないようである)。
「就労戦略」とは就労を優先あるいは働くことが特になるような戦略で、失業保険、傷病保険、生活保護、年金などにもその特徴が現れる。たとえば失業保険はただ単に給付を行うだけではなく、申請者の積極的な求職活動が要求される。生活保護の目的は申請者の経済的自立で、ただ単に給付を行うだけでなく、積極的な求職活動が要求される。年金制度も生涯所得に比例しているので、働けば働くほど年金給付は増える。なおスウェーデンは1971年に夫婦分離課税を導入し、特に女性の就労支援に効果がある(夫婦で見てみるならば、女性が独自に所得を得ることによって課税率が減り、就労のインセンティブが増える。またこれによって、女性独自の年金権も得ることができる)。スウェーデンの社会保険制度の存在理由は中流階級も恩恵にあずかれるような所得比例給付(最低保障のみではない)を行う事と、所得分配である。スウェーデンの所得移転の割合が大きいからこそ、就労戦略はより重要である。コインの裏表の関係と言っても過言ではない。

労働大臣にインタビューがされているが、内容がお粗末すぎる(カットされている部分があるのかわからないが、日本でもこのような単純な質問はしないであろう。政治家へのインタビューは政治独特のレトリーク、議論を知ってないと、うわべだけの質問になってしまう危険性がある)。

第3に保守政権になってからの変化にも触れるべきである。保守政権になってからスウェーデンモデルの特徴である労働市場政策は変化があった。また格差も大きくなっている。

第4に政治関係の情報が不正確である。スウェーデンは原則的に政党に投票するので、政治家個人よりも政党に対する補助が重要視されている。議員が秘書あるいは事務所をもつのではなく、国会議員の政党グループが補助を得て職員を雇用し、事務局を置いている。本人が負担した交通費も領収書を国会事務局に提出して支払いを受けるという制度である。議員会館の話しも嘘である。国会事務局は250名分の議員宿舎を持っているが、議員宿舎は議員の一時滞在に利用されるのであって住むのではない(この話題は日本における議員会館新築から出されたと思うが、日本で話題になっているからこそ制度の違いおよび考え方の違いをもっと分析するべきである)。これらはすべて調べればわかることであるが、大事なのは表面的な現象ではなく制度の運用およびその考え方である。

第5に、高齢者住宅の扱い方が誤解を与える恐れがある。日本の訪問者、視察者が行くのはサービスハウスであることが多い。しかしサービスハウスは一般住居ではなくて、特別な住居であり、最近はその存在に疑問が出されている(番組の中で紹介された住居は多分、サービスハウスであると思われる)。

50周年番組としてだけではなく、ドキョメント番組としてもあまりにも内容がお粗末である。客観性、正確性、妥当性を満たしていない。十分な調査をしないで慌てて作った番組のように思える。番組にはスウェーデン研究者が一人も参加してなかったのも気になるところである。

私はスウェーデンに住んでいるので、日本のテレビ番組を見る機会はない。上記の「スウェーデンスペシャル」は特例である。Youtubeをチェックしてみると、他にもこのような番組があるようである。その中でも「スウェーデンスペシャル」はまだましな方である。最悪の番組は、あえて番組名は出さないが、お笑い芸人が参加するバラエティ番組である。参加者だけでなく司会者(お笑い芸人)も、内容/数字の意味を全然理解していないので議論として成り立っていない。いわゆる評論家あるいは研究者が出ている番組もあるが、スウェーデンのことをほとんど知らないので、表面上の議論しかしていないことである。バラエティ番組で言われていることをそのまま信じる人は多くないと思うが、それでも番組(放送局)の責任は重大である。
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