スウェーデンは桃源郷か

日本では「社会保障改革」が議論されているので、スウェーデン関係の記事も多くなっている。去年の11月下旬、毎日新聞に「増税を問う」というシリーズが掲載されていた。

「スウェーデンも桃源郷ではなくなりつつある。金融危機に見舞われた90年代初め以降、財政悪化を避けるため介護を運営する自治体も在宅介護へのシフト、民間委託などでコスト削減を進めている。人員削減の結果、15年には介護職員が20万人不足する可能性もあり、海外から安価な人手の受け入れを増やしている」

「スウェーデンも桃源郷ではなくなりつつある」という挑戦的な文から始まっている。そもそも誰がスウェーデンは桃源郷だと言っている(いた)のだろうか。マスコミではないだろうか。研究者は桃源郷という言葉を使ってないはずである。問題のない国は存在しないし、グローバル化された世界にあって一国のみで社会が完結しているわけではない。
民営化および在宅介護へのシフトということについては、このブログにも書いているのでここでは触れない。問題は最後の「海外から安価な人手の受け入れ」という文章である。介護職員の不足というのは職員の高齢化および2020年頃からの後期高齢者の増加に伴う職員不足であって、人員削減の結果ではない。現在、介護が必要な後期高齢者はほとんど変化がないので、人手不足というのは大きな話題にはなっていない。なお介護分野では外国人の割合は相対的に多いが、労働移民ではない。また外国人を雇っても、人件費が安くなるわけではない。同じ仕事をしている限りにおいては、外国人もスウェーデン人も同じ給与であり、もしそうでないなら労働組合だけでなく、世論も許さない。

「スウェーデンでは納税者番号がなければ、病院にもいけないし、車も運転できない、クレジットカードも使えない。番号を管理する国は私がどんな本を読み、何を買ったかまですべて分かる」

これはでたらめな文章である。スウェーデンには個人番号(納税者番号ではない)があり居住証明でもあるので、公的医療を使うには個人番号が必要である。個人番号が書かれた身分証明書を見せることにより、ほぼ無料で医療を受けられる。個人番号がない旅行者などは実費を支払わなければならない。クレジットカードで買い物をする場合、個人番号が書かれた身分証明書を提示するか暗証番号を入力する。購入情報が国に送られるわけではない。図書館は個人番号でもって本の貸し借りの管理をしているが、これらの情報が国に集められているわけではない(個人番号が記入された身分証明書を提示して図書カードを作成し、図書館側は個人番号で利用者の住民登録が確認できる)。

信じられない文章であるが、記者は疑問を持たなかったのであろうか。住民がどの様な本を借りているか、あるいはクレジットで何を買っているかの情報を集めている国はあるのだろうか。「インタービューした人がそう発言したのであって、内容に誤りがあっても記者には責任はありません」とでも言うのであろうか。とにかく記者の常識を疑う。

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