スマトラ沖地震

 スマトラ沖で起こった地震によって、休暇中のスウェーデン人にも大きな被害をもたらした。12月31日に行われたパーション首相の記者会見において、現時点における死亡者は59名、行方不明者3559名であると発表された。スウェーデンの歴史上最大の災害である。このため12月31日の花火の打ち上げは全国で中止になり、2005年1月1日は全国で半旗が揚げられる。数日前から多数のスウェーデン人をタイから帰国させるという大輸送が始まっていて、ストックホルム近郊の7つの病院では傷病者受け入れのため、非常態勢に入っている。

 今回の大空輸作戦で、2日までにあわせて1万4千人のスウェーデン人が被災地域からスウェーデンに帰国した。なお1月1日に行われたテレビによる募金活動で、1日だけで3億3千万クローナ(およそ50億円)が集まり、これは1日の募金額としては最大である。また1月3日は仕事始めなので、各職場、各学校では子供、同僚、家族を失った職員、親、家族、兄弟を失った子供の受け入れのために最大の試練を迎える。

 1月4日現在、死亡者52名、不明者1903名に下方修正され、不明者の確認は外務省から警察庁に移った。

 5日午前3時、最初の6人の遺体はスウェーデン空軍輸送機でアーランダ空港に到着、国王家族、首相、国会議長および親族の出迎えを受けた。

 6日の朝日新聞インターネット版に「(スウェーデンで)不明者リストの公表を求める地元メディアと、「留守宅が犯罪の標的になる」として公表を拒む政府が対立している」と載っている。これは、そんな単純な話ではない。不明者リストの公表に関しては、まず世論が二分していて、マスコミが家族をさらし者にしているという批判も多い。特に児童に関しては児童オンブズマンが批判記事を載せている。政府、正確には警察庁がリストを公表しないことを決めた根拠は秘密守護法で、公開することが遺族に害を及ぼすことがあるという理由(特にマスコミからの取材)である(普通は、警察が遺族に連絡してから公表するという手順を踏む)。不明者リストは7日中にも住民登録と付き合わされて各市ごとに分けられ、各市の警察署、市の対策本部に送られ、警察が不明者捜査を行う。9日には、毎日新聞が情報公開について載せていたが、タブロイド紙が家族、親族からの自主的な情報を公開していることと、政府が不明だと思われる人の情報を公開することとは話が異なるのである。不思議なのは、両新聞とも非公開の根拠は秘密守護法であること、およびその内容を一言も報道してないことである。被害者を公開してないのはスウェーデンだけでもなく、ドイツも非公開だと思う。多分、これらの記事は自主的な調査の結果ではなく、英語新聞記事のコピーか通信社の記事だと思われる。

 8日の毎日新聞に「スマトラ沖大地震:1900人不明のスウェーデン 情報なく家族に怒り」という特派員報告が載っている。不明者の詳しい情報がないというのは国内にても聞かれることで、それ自体は正しい。しかしこの記事に書かれている「高福祉を誇る政府も、行方不明者の多さに、十分なケアもできないままだ」というのはおかしな文章である。何でも高福祉に結びつけたいのであろうが、「十分なケア」とは何を指すのであろうか。空輸作戦をした結果、現在では一部の空輸に耐えられない人を除いてスウェーデン人の傷病者はすべて帰国させたと言われている。この調査に当たったのは社会庁からの依頼に応じてタイに派遣されたストックホルム県の緊急医療チームである。また上記の帰国した人やその家族のためのPTSDチームが各県、各市において作られており、「十分なケアがされてない」とは何なのであろうか(その後に出された報告書においては、一部混乱もあったが国内における援助体制は合格点が与えられている)。

 なおスウェーデン国会は8日、緊急に時限立法としてPKU登録の変更を行った。このPKU登録というのは、遺伝的難病の研究のために1975年以降に生まれたすべてのスウェーデン人の血液試験が保管されているもので、これを不明者特定のためのDNA検査に使えるよう法律改正がなされた。同時に、国会の憲法委員会が政府の行動を調査する予定である。7日にまだ正確ではない不明者リストが警察から各市に送られたのは、10日から学校の新学期が始まるからで、各市の教育局、福祉局では児童の対策に大わらわである。スウェーデン政府は、今回の災害における行政機関(政府および大臣の行動も含む)の対応の問題点を調査するために委員会を設け、今年の12月までに報告書を出す予定である。

 2月3日現在、スウェーデンの行方不明者は併せて523名で、このうち15歳以下の児童は112名であると警察庁から発表があった。なおこのうちおよそ40%がストックホルム県居住者である。なお今回の被害を受けた人および家族の援助を総合的に行うため、前社会庁長官を委員長とする行政機関が活動を開始した。不明者の法律的な死亡証明(住民登録からの抹消)は、正確を期すため時間がかかるものであるが、今回は状況が状況だけに、早期的な証明のために法律が改正される見込みである。

 2月9日8時、行方不明者リストは警察庁から公表された。これは公表を求めて通信社が行政裁判を起こしていたもので、下級行政裁判所は非公開を合法としたが、最高行政裁判所が8日に秘密守護法適用を解除し、公文書公開の原則の適用を受けるようになったためである。行方不明者565名(死亡者を含む)の名前、個人番号、住所が公開されたが、6名に関しては個人保護の対象であるので公開されていない。なお公開されたということは、このリストが自動的にそのまま新聞紙上にも公開されるということではなく、多くの新聞では名前、居住市、年齢か出生年のみを公開している。毎日新聞は警察がウェブサイト上で公開したと書いているが、これは間違いである。ウェブサイト上で公開したのはマスコミであって、警察が公表したのは印刷物になったリストである。なお津波災害の為の募金額はあわせて10億クローナ(およそ150億円)になったと発表があった。(2005年1月1日記、2月12日追記)
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