2015年の高齢者介護

先月末、「2015年の高齢者介護」という報告書が発表された。2015年に向けた高齢者ケアの確立ということであるが、研究会の報告書としては、表面的 には妥当な結論のように見える。しかし、内容にはかなりばらつきがあるし、どこまで客観的な分析をした結果かが不明である。介護保険決定のプロセスと同じ く、審議をしましたというアリバイ作りなのであろうか。

 まず第1にサービス圏および地域包括ケアというのも出てくるのが少し遅すぎはし ないか。民間に丸投げ行政のもとで、市町村はお金の計算以外のどの様な福祉計画をしているのであろうか。たとえばグループホームにしても、最近は保険費が 高騰するという理由でもって市が制限を設けていると聞く。グループホームを必要とする高齢者は増えていると思われるが、権利性は守られているのであろう か。税金であろうが保険であろうが、その収入と給付とはバランスが取れなければならないが、制度の維持と個人の権利性、選択の自由と相反することもあり得 る。

 第2にホテルコストなどが自己負担になり各自の負担額が大きくなる時に、低所得者層にどのようにして介護保障、住宅保障をするかという考慮が十分ほとんど払われていない。

  第3に住宅の定義がないことと、これに伴い「死ぬまで住み続けられか」ということに関してはっきりとした明言がないことである。住宅水準改善ということが 言われているが、ユニットケアでさえ一人あたり9.9平米が水準なのである。これはあくまで個室化であって住居化ではない。

 第4に自宅 でない「新しい住まい」というのもおかしな表現である。自宅でも施設でもない「第3類型」であると言われ、グループホームやケアハウスなどの特定施設をさ しているらしいが、なぜ既存の施設をこの「新しい住まい」にしようとしないのであろうか。必要なのは自宅でも施設でもない「新しい住まい」なのではなく、 自宅で施設でもある「新しい住まい」なのである。ケアハウスにしろ老人保健施設にしろ、いわゆる中間形態がその本来の意義を発揮できないだけでなく、問題 解決を複雑化したということを考えてみれば、今回の自宅でも施設でもない「新しい住まい」という「第3形態」が高齢者ケアの改善につながるのであろうか。 問題点は介護政策の中でしか住の問題を考えてこなかったことが、制度をより複雑にしているようである。

 第5にサテライト方式という言葉 は最近はやりであるが、おかしな説明が載っていた。高齢社会白書によると、サテライト方式とは「特別養護老人ホーム等を中心に、周辺に衛星(サテライト) のように小さなデイサービス施設などをいくつも設け、そこで認知症等の高齢者のケアを行うもので、小規模で地域に密着したケアを行うことが可能となる」で あり、「特別養護老人ホーム等とは異なり、決められた介護を規則的に行うのではなく、高齢者がまるで自宅にいるように思い思いに時間を過ごせるように配慮 している」と説明されている。しかしこれは介護方法論および福祉機関の協力の問題で、サテライト自体とは何の関係もないのである。一番大事なのは、市の高 齢者ケアがシステムとして機能することである。

 第6に地域展開、新しい住まい、365日の介護が今回のハイライトであるらしい。「在宅 での生活と施設での生活との間に断絶が生じないよう、そのすき間を埋める仕組みとして」、「切れ目のないサービスを一体的・複合的に提供できる拠点が必要 となる」、「同じスタッフにより行われることが望ましい」。このために小規模、多機能のサービス拠点を作るとある。もちろん日中の通い、一時的な宿泊、訪 問サービスを小規模化の中で一体的に供給する託老所のような施設もあっても良いが、全体的なシステムの中でこれが機能するのであろうか。小規模、多機能化 というのは、多分託老所、民家改造型のグループホームからきていると思うが、この小規模というのは建物の話なのか介護ユニットの話なのかがはっきりとして いない。小規模化の持つ問題点(小規模化の持つ危険性、脆弱性、一般民家利用が故のバリアフリーの不十分さ、住居環境の不十分さ)についてはほとんど考え られてないようである。また多機能というのは市町村の福祉計画の中で判断されるべきもので、各施設の多機能自体が目的ではない。集中化させたら良い機能と 分散化させたら良い機能もあり、常に多機能がよいとも言えない。組織と機能の問題も十分区別されているとも思えない。

 第7に、この報告 書において地域密着ということが頻繁に出てくるが、全く理解が出来ない言葉使いである。地域密着というのは、地域においてどの様に役割分担、連携を図るか という地域福祉計画の問題で、施設などの大きさとは関係がない。特別養護老人ホーム、老人保健施設などがなぜ住宅地ではなく、郊外に建設されているかとい うことを問わずして、何のための地域密着、地域展開なのであろうか。そしてなぜ小規模多機能モデルのみが地域密着なのであろうか。現在の特別養護老人ホー ムに種々の問題があることは事実であるが、厚労省は介護方法および市の福祉計画の問題ではなく、特別養護老人ホーム自体の存在が地域に密着した介護あるい は個別ケアが出来ないと思っているのであろうか。

 第8に、施設介護での最大の問題は、種々の施設形態を先に作って、それにあわせて入居 者を移すということを原則にしていることである。本来は出きるだけ移動を少なくして、入居者の状況に応じて周りの援助形態を変えるというふうにするべきで ある。これが本来の個別ケアである(なおこれは原則であって、いわゆるサービスハウス/ケアハウスは問題があるが、ここではふれない)。また施設形態を複 雑化しているために、その結果各団体の利益に挟まれて、施設計画がだんだんと身動き(および政治的イニシアチブ)が取れないようになってきているのではな いだろうか。

 研究者が参加した委員会の報告書としては、お寒い内容である。特に目的と手段あるいは本質と現象が十分区別されていないこ とと、あまりに単純な二分化論に陥って、論理の飛躍が見られることである。「木を見て森を見ず」の議論である。この報告書が学術論文ではなく政策文書(正 確には政策文書でもなく、私的委員会の報告書である)であることは十分承知しているが、どこまでこれが証拠にもとづいた(evidensbased)科学 的な事実をベースにした政策論か大きな疑問が残る。(2003年7月3日記、2007年2月19日追記)
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