高齢者ケアの民営化

スウェーデンの高齢者ケアにおける民営化が日本の新聞の話題になることもあるが、民営化の話は書き方が難しい。第1に民営化は政治的対立の大きなテーマであり、個人、政党によって意見が大きく異なっている。社民党内においても意見が異なる。第2にスウェーデンの民営化は日本と状況が異なるので、著者/記者が十分背景、内容を理解していることが必要である。第3に政治的 意見の違いから、市の民営化の状況も異なる。第4に、スウェーデンにも介護スキャンダルはあるが、記事にする場合は、一般的なことを書くか、特例的なことを書くかによって、どのようにでも書くことができる。

報道も断片的で、民営化したから悪くなったという報告がある一方、他方ではスウェーデンでも民営化されて安くなったあるいは良くなったという報告もある。民営化したから悪くなったというときに良く引用されるのが、1997年に起こったサラ事件である。これは民間委託されたナーシングホームにおいて、十分な介護が行われていないとサラという准看護師が訴えたものである。この事件は 後にサラ法が出来た契機になった。民営化によって高齢者ケアの質が悪くなったかどうかを答えるのは簡単ではない。良い民間施設も悪い公営施設もある一方、 制度上施設ごとの区別がないからである(例えば民営化されたナーシングホームと公営の老人ホームとの比較は意味がない)。「民営化によって質が悪くなった あるいは良くなったという証拠は見つけられない」というのが、監査関係者の答えである。

先週、知りあいから2009年6月10日付の朝日新聞が送られてきた。「広がる介護の民間委託」という記事であった。内容には失望した。民営化という複雑で政治的対立の大きい問題をあまりにも単純化しているからである。いくつかおかしな内容を含んでいるが、気になったのはサービスについてである。
「----- 必要なサービスは何でも提供してくれる。-----途切れなく細かなサービスが利用できるのは民間業者ならではとも感じている」
これは、本当に利用者の発言なのであろうか。なぜならば、介護/サービスの内容、回数などは市の介護ニーズ認定者によって決定され、市か民間会社がその決定を実行する。必要なサービスを直接介護会社から購入するわけではない。ホームヘルプにおける運営者が市か民間会社かを問わず、一番苦情が多いのは職員の継続性であり、ヘルパーが良く代わるということである。同じようにしてヘルパーが来る時間を守らないというのも良く聞く苦情である。この記事には90年代に始まった「選択の自由」のことに触れているが、内容が十分理解されていないようである。

記事の中で契約を破棄したという施設のことが載って いるが、良く言えば監査が機能しているということで、反対から見れば行政(或いは政治的な)の問題意識のなさを表している。この施設は委託されて10年以上経つと思うが、運営会社が何回も代わっていて決して介護内容で有名な施設ではない。にもかかわらず、区は委託を続けてきた。記事には民間委託によって区の財政が改善されたと載っていたが初めて聞く話である。記事からは正確な質問およびその返答がわからないが、財政改善は90年代の話なのか現在の話なのであろうか。区の報告書によると、決算に大きく影響するのは介護が必要な高齢者の見込み人数と最終的な人数の差である。報告書には民営化によって費用が減少したとは書かれていない。なお現在、ストックホルム市は価格の入札ではなく質の入札を行っている。このため、委託で費用は安くならないのである(90年代の民営化あるいは民間委託が値段に重点が置かれた結果、質が落ちたというのが一般的な認識および反省であり、このためストックホルム市ではその後値段から質の入札に移った)。

同じような記事は読売新聞の「超高齢時代」第93回にも出ていた。両者とも最大も問題は一方的な記事の書き方で、民間団体の代表のみにインタビューすることは危険である。すでにこの頃、民営化批判が起こっていて、この話題に触れていないのは残念である(記事に紹介されている施設も批判があった)。
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